タクミシネマ        アイ ウォント ユー

アイ  ウオント ユー   
マイケル・ウィンターボトム監督

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アイ・ウォント・ユー [DVD]

 イギリスの小さな映画だが、なかなか力のある作品だ。
やや暗い画面に抑制の利いた調子と、面白い登場人物を配している。
人物の性格設定も複雑で、最後のどんでん返しと言い、鋭い人間観察である。

 23歳の男マーティン(アレッサンドロ・ニヴォラ)が、14歳の女性ヘレンと恋仲になった。
二人がベットにいるところをヘレンの父親に目撃され、争いになる。
誤ってマーティンが父親を殺してしまい、困った二人は死体を海へ捨てるが、直ちにばれて彼は15年の刑に処せられる。
9年たったところで、彼は仮出所してくる。
ヘレン(レイチェル・ワイズ)はその間、彼を思い続ける。

 以上の話が前提にあって、映画はホンダと言う少年を主人公にして始まる。
彼は小学生くらいで、歌手のお姉さんと一緒に海辺に住んでいる。
このお姉さんがなかなか良い。
彼の趣味は録音であるが、母親が自殺して以来、誰とも口をきかなくなってしまった。
ある時ヘレンと知り合って、彼は恋心を感じるが、年が離れているので、母と子と言った感じでつきあうようになる。
そこへ、マーティンが出所してくと、マーティンとヘレンは縒りが戻る。

 ヘレンを独占したかったホンダは面白くない。
そこでホンダは、マーティンがヘレンと会ってセックスしたことを、保護観察官に密告する。
保護観察官は、マーティンに街を出るように通告。
その別れにマーティンがヘレンの所へ来た時に、偶然ホンダが居合わせる。
すると、ヘレンはセックスしに来たんでしょうとマーティンをなじるが、彼はヘレンが父親を殺し、その罪を自分がかぶったことをホンダにばらしてしまう。
カッとなったヘレンは、マーティンを燭台で殴り殺してしまう。
そして、死体をホンダと二人で海へ捨てるが、ホンダはあこがれのヘレンの正体を見て失望。
家に駆け戻り、お姉さんの胸で泣きながら映画は終わる。

 子供の変質的な録音趣味、歌手のお姉さんのあけっぴろげなセックス好き、化石が好きな謎のおじいさんなど、面白い設定である。
貧乏なはずのホンダに、高価そうな録音機材があるのは不自然だが、それには目をつぶろう。
子供の純粋さが、天真爛漫に描かれるのではなく、正邪の不気味な二面性として捕らえられている。
子供を純真だと決めるようになったのも、最近のことだろうが、子供は子供の期待から行動しているだけであって、子供の行動基準は社会的な正義ではない。
むしろ子供の独占欲は、社会性がない。

 ホンダが憧れたヘレンの正体は、簡単に人を殺し、海へ死体を投げるのだと知った。
そのホンダの心境と、それまでホンダがしてきた盗聴とのアンバランス。
そして、お姉さんのセックスとが綯い交ぜになって、分裂した価値の錯綜状態を象徴している。
マーティンが収監されている間、何人もの男から言い寄られても、体を許さなかったヘレンだが、マーティンには愛情が残っていた。
二人のセックスシーンは激しいだけに、哀惜に満ちて獣的だった。
それは好色さを感じさせるものではなく、自然で淫乱だった。
23歳と14歳の肉体関係ではなく、充分に成熟した男女のセックスである。
最近の映画で、久しぶりに見る健康なセックス描写だった。

 マーティンにしても、ヘレンにしても、ホンダにしても、またホンダのお姉さんにしても、複雑な人物設定である。
この監督は、決して一面的に人間を見ておらず、愛憎半ばする心理を上手く画面に展開していた。
14歳の少女との性交は、それ自体が犯罪で、マーティンがヘレンの罪をかぶって下獄したのもうなずける話だった。

1998年のイギリス映画

  


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