タクミシネマ        シャーロット グレイ

 シャーロット グレイ
  ジリアン・アームストロング監督

 第二次大戦の最中、イギリス人女性の話である。
シャーロット・グレイ(ケイト・ブランシェット)には飛行機乗りの恋人(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)ができた。
しかし、戦争は二人を分ける。
恋人はフランスの戦線に行ってしまった。
平凡な看護婦だった彼女は愛国心に燃え、諜報部員となって恋人のいるフランスへ向かう。
フランスといっても広いから、恋人に出会えるわけではない。
劇場パンフレットから

 彼女の行った地区は、ヴィシー政権が支配するところで、レジスタンスがさかんだった。
ドイツが侵攻してくる。
彼女もレジスタンスに混じって、列車の爆破などをやっていたが、徐々に追いつめられる。
居候していた家の主人(マイケル・ガンボン)や、匿っていた二人の子供が、ユダヤ人として連行される。

 終戦とともに、彼女はイギリスに戻る。
そこへ死んだとばかり思っていた恋人が現れるが、歳月が二人を分け、すでに彼女の心は恋人にはなかった。
このまま終われば、生き方を模索した強い女性の物語である。
ところが、続きがある。
彼女は、ともにレジスタンス活動をした男性ジュリアン(ビリー・クラダップ)に、思いを寄せてフランスに戻って映画は終わる。


 何が言いたかったのか、よく解らない映画である。
まず、恋人を追いかけてフランスへと行っても、軍務についている恋人に会える保証はまったくない。
だから渡仏の目的は、自立(=愛国心?)に目覚めて、ナチと闘うためかと思っていると、最後には元の恋人をすてて、フランスの恋人のところに戻ってしまう。
結局彼女の人生は、男をめぐって行動していたのだろうか。
そうだとすると、男あっての人生になってしまう。

 フランスでロケをしたと思われる田舎の風物が、外国人の目からは珍しい。
とくに普通では見ることのできない、農家の内部や食生活などが興味深い。
それなりにお金がかかっているためか、ディテールは上手く作られている。
第二次世界大戦当時の車や衣装も、アメリカのように保存が良いとも思えないから、いまではなかなか見つからないだろう。
それでも、ぴかぴかのメルセデスやシトロエンが登場し、古い時代の雰囲気を充分に作っていた。

 ヨーロッパの街並みは、何百年も変わらないから、古い時代の撮影は楽だろう。
当時とまったく変わらない街すらあると思う。
ところで、「蝶の舌」といい「暗い日曜日」といい、反ナチ映画にはユダヤ系の資本から、簡単にお金がでるのだろうか。
ナチへの怨念とも言うべき、ユダヤ人の執着はすさまじいものがある。

 フランスがナチに協力した過去は、今では語られることは少ない。
レジスタンスばかりが語られ、ヴィシー政権のことはまったく忘却の彼方である。
オーストリアと同様に、フランスもナチに協力したのは事実だ。
ドイツが負けた以上、ナチに協力したヴィシー政権のことは、フランス人たちは早く忘れたいだろう。
忘れたい心理は、翼賛活動に協力した、わが国の知識人たちも同じである。


 この映画は、オーストラリア人の女性によって撮られている。
いまでは女性が監督をすることは珍しくはなくなったが、女性監督は女性の人生を描きたがるように感じる。
しかし、女性特有の視点から映画を作ることからは、もうそろそろ脱皮しても良いように思う。
女性特有として問題をたてると、どうしても対男性とか、対子供といったかたちで、対他的に解決が図られる。
当人固有の問題とするには、女性としてではなく、人間として問題をたてたほうが良いと思う。

 戦争は男女に平等に困難を与えるのであり、そこに女性特有の問題を見つけるのは、視野を狭めるのではないだろうか。
この映画も、シャーロット・グレイの人生に焦点を絞っているので、ケイト・ブランシェットのワンウーマン映画になってしまっており、もっと主題も展開も広げられるのに、こぢんまりとまとまってしまった。
 
2001年イギリス映画   

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