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1936年、スペイン市民戦争が始まる直前、映画の舞台はガリシア地方の小さな村である。 小学校の教師グレゴリオ先生(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)は、子供たちが大好きで、しかも自由主義的な教育を行っていた。 教師と子供は対等で、彼はけっして殴らない。 自由の大切さが、何度も強調される。
人の心のなかには、もちろん天国と地獄があった。 しかし、近代的な科学が普及し始めてもいたので、自由を尊び神をも恐れぬ人たちが生まれてもいた。 この小学校のグレゴリオ先生は、バリバリの自由主義者で、しかも無神論者である。 当時にあっては、無神論者とは人間ではないことを意味しただろう。 子供を殴らないことの重要性が、わが国では認識されていないが、西洋人にとって子供は動物だったから、鞭で殴って躾けるのは当たり前だった。 カソリックは肉体を虐めるのを修業と考えているから、修道院における教育が残酷になるわけである。 それにたいして、子供にも人格を認めたのは、教育方針の革命的な変化だった。 まさに自由主義教育という革命だった。 革命の常として、子供を殴らないことが、必ずしも全員に共有されていたのではない。 自由な工業社会化への反動が、ファッシズムという形で表れていた。 経済状態が不安定な時代、ドイツにおけるナチの対等と同様に、スペインではフランコが台頭しつつあった。 自由を守ろうと、時の政権は辛うじて存続していた。 工業社会になったとはいっても、まだまだ幼稚だった。 生活は農耕社会と変わらず、すべての仕事が手で行われていた。 この映画でも、主人公モンチョ(マヌエル・ロサノ)の父親は仕立屋である。 機械らしい機械など何も使わない手仕事の時代、人間たちは自然との直接的な接触に生きていた。 生活は非衛生的だったけれど、豊かな自然は人間に多くの恵みを与えた。 風雲急を告げるなかで、グレゴリオ先生は自分の信念に基づいて、子供たちに教育をしていく。 それは、19世紀後半に台頭し始めた自由教育うけたものであり、工業社会が見え始めた時代への新たな胎動であった。 自由は新しいものだった。しかし、時代は単線的には進まない。 カソリック教会は、実に反動的である。 この映画でも、キリスト教への批判が随所に現れており、カソリックがファッシズムに協力していった様子がよく判る。 古いカソリックは、ファッシズムの温床だった。 工業社会を作った自由なる概念と、権威主義的なカソリックはどう組み合わせても、敵対関係にある。 モンチョはそれを冷たく見ている。 この映画は、単なるファッシズム批判ではない。 この監督は、おそらく反ファアシスト=反フランコだろうと思うが、イデオロギーに関係なく人間の素顔を描こうとしている。 むしろ、自然を賛美することによって、些事にこだわる人間の愚かしさを描いているようだ。 モンチョと仲良かったグレゴリオ先生が逮捕されるや、モンチョに「アカ」「無神論者」といって非難させる。 庶民は体制から身を守るために、世話になった人を平気で裏切る。 昨日までの同志が、グレゴリオ先生を罵倒することによって、自分の身を守る。 子供であるモンチョに、母親はグレゴリオ先生を罵倒するように、し向ける。 そうして、自分の身を守る。トラックで護送されていくグレゴリオ先生に、子供たちは石を投げつける。 わが国では、庶民は戦争の犠牲者として、描かれることが多い。 しかし、この映画は、庶民こそ戦争を支え、ファシストたちを跋扈させた、という。 自分の身を守ることが、戦争への道につながっていたのだ。 この構造を赤裸々に描くこの映画は、やはり西洋のしつこい思考の賜物である。 自分たちが戦争を選んだのではなかったら、誰が戦争をしたのだ、といっているようだ。 庶民は平和を望んでおり、戦争は支配者がやったんだって、そんな責任逃れは許さない。 社会の主人公は、庶民である。 善も悪も、すべて庶民の選択である。 自然を描いているが、重い主題を扱っている。 ただちょっと気になったのは、この映画の自然賛美は、かつてのカソリックと同様に、反動的な道につながっているのではないだろうか。 農耕社会を懐古した人たちが、自然を賛美したものだ。 自然のなかに規則性を見つけ、自然を手なずけようとする人間の試みが、神ならぬ人間の社会を切り開いていく。 この映画の懐古的な資質には、やや危険な匂いを感じた。 最近では珍しいワイドスクリーンで、監督の狙いがどの辺にあるのか、ちょっとつかみかねたが、懐古的な匂いがあるので、いずれにしても老人の作品だろう。 それにしても、当時のスペインの食生活は、貧しかったのがよくわかる。 毎食がスープとパンだけだった。 1999年のスペイン映画 |
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