タクミシネマ         ギャング オブ ニューヨーク

ギャング オブ ニューヨーク  
マーチン・スコセッシ監督

 「カジノ」では専業主婦の崩壊という、アメリカではやや時代遅れな主題を扱ったマーチン・スコセッシ監督である。
前作の「救命士」といい、今回の「ギャング オブ ニューヨーク」といい、表現すべき主題を喪失した感じである。
長い監督生活で一流を続けるのは、本当に大変なんだろうと思う。
ギャング・オブ・ニューヨーク [DVD]
劇場パンフレットから

 法秩序が未整備で貧乏な街は、どこも無法者の天下である。
1846年当時のここ、ニューヨークも例外ではなく、ギャングが跋扈した。
ヴァロン神父(リーアム・ニーソン)ひきいるデッド・ラビッツと、ビル(ダニエル・デイ=ルイス)が率いるネイティヴ・アメリカンズが、ファイヴ・ポインツで衝突した。
ヴァロン神父が殺され、デッド・ラビッツは消滅した。
父が殺される経緯を見ていたのが、幼い息子のアムステルダム(レオナルド・デカップリオ)だった。

 それから16年の歳月が経過した後、父親を殺された復讐に立ち上がる若者の話を、建国当時のアメリカの歴史に重ねてみせる。
時は1861年、南北戦争が始まった。
戦争は大量の兵士を必要とした。
アイルランドからの移民に兵士を求めるが、志願兵はなかなか集まらない。
貧乏な移民たちはアメリカに上陸すると、ファイヴ・ポインツという下町に住む。


 衝突当時は小さかったアムステルダムも、16年後の今では20歳を超えている。
施設を出た彼は、ニューヨークのファイヴ・ポインツに戻った。
抗争で父の命を奪ったビルのもとへ、アムステルダムは経歴を隠して身を寄せる。
心には復讐を秘めているが、彼の内心を知らないビルは、アムステルダムをかわいがった。
しかし、仲間の密告により、彼の素性がばれてしまう。
しかも、アムステルダムはビルを暗殺しようとしたが、返り討ちにあってしまう。

 辛うじて命を助けられたアムステルダムは、公然と仲間を募り、アイルランド人の結束を図る。
しかし、時代は暴力的な抗争を許さなくなっていた。
投票によって代表者を選ぶ、アメリカの民主主義が誕生しようとしていた。
初めての選挙では、票の買収などがあったがそれでも、民主主義が産声をあげた。
アムステルダムの仲間が代表に選ばれるが、ビルに殺害されてしまう。

 どんな国も、建国時代は混沌たるものだ。
イギリスから独立はしたものの、自由こそあったが民主主義は未だ誕生していなかった。
この映画は、暴力が支配していた時代から、民主的な社会へと転換する社会を背景としている。
最後に流れる音楽が、アメリカでの民主主義の誕生を歌い上げる。
アメリカの民主主義は、自分たちの血を流して作られたことを、この映画は強調する。


 話の流れをつくるのはアムステルダムの復讐劇だが、復讐が主題だとみるのは無理である。
おそらくアメリカ建国への賛歌が、主題にしたかったのであろう。
民主主義はきれい事ではなく、血に塗られたものだ。
そう言いたかったに違いない。
しかし、製作者たちは、主題の絞り込みができなかったように見える。
復讐劇として見るには、時代背景への入れ込み方が深すぎる。
結果として、どちらともつかない中途半端なものになってしまった。

 主題がはっきりしなかったので、物語に芯ができず、平凡で単調な仕上がりになってしまった。
ダニエル・デイ=ルイス、レオナルド・デカップリオ、キャメロン・ディアスと、芸達者な俳優をそろえていながら、演出は大味である。
役者の演技を充分に引き出していない。
この3人は、自然な演技が売り物だが、この映画では全体にオーバーアクションで、とても今日的とは言えない。
マーチン・スコセッシ監督は、一時代前のロバート・デ・ニーロやメリル・ストリープなどとは、相性がいいのだが。

 経験豊かなマーチン・スコセッシ監督は、職人的な技術は持っているので、カットはそれなりに見せる。
ここには美しいシーンもあった。
しかし、主題がぶれてしまったので、およそつまらない映画になっていた。
この内容では、長い時間にわたって、観客の関心をスクリーンに釘付けにするのは無理である。


 映画は主題だけでなく、物語の展開や映像美といった面ももちろん大切である。
いかに主題が鋭くても、それを表現する方法が未熟では、言わんとするところが伝わらない。
しかし、主題をもたない映画は、成立が不可能と言っても過言ではない。
表現方法は主題を伝えるためのものであり、逆ではない。
とりわけ長い監督人生を支えるのは、主題であり、主題の深化が監督の生命を長らえるのである。

 「タクシー・ドライバー」などの名作を残した監督ではあるが、活動の盛りは過ぎたように思う。
名をなしたがゆえに、制作費は集まるだろうが、主題が枯渇した今となっては、そろそろ引退を考えたほうが良いように思う。
才能とは、残酷なものだ。

 この映画は、制作費が安いので、イタリアのチネチッタで撮られたとか。
日本人女性だろうワタナベ・ノリコという名前が、ヘアー・メイキャッパーとしてクレジットされ、ヨシモト・ユウジという名前がモデラーとしてクレジットされていた。
彼らは普段はアメリカにいて、この映画のためにイタリアに行ったのだろうか。 

2002年アメリカ映画   

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