タクミシネマ          ハリー・ポッターと秘密の部屋

ハリー・ポッターと秘密の部屋  
クリス・コロンバス監督

 世界的に有名なファンタジー小説も、2作目の映画化となると鮮度が落ちてしまう。
元来が、イギリスの古い身分制を下敷きにした話なので、前作も新しい時代を切りひらくようなものは何もなかった。
この手の映画は楽しいおとぎ話を楽しむものだが、話の前提が現状肯定的で、むしろ旧を懐古さえしており、このサイトではあまり高い評価をしていない。
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 「千と千尋の神隠し」についても同じことが言えるが、大ヒットいうのは革新的な主題を扱ったものではない。
むしろ旧を懐古するもののほうが多い。
新しいものは、観客に評価を強いるので、気安くは飛びつけない。
それにたいして、懐古的なものは評価が定まっており、安心して身をゆだねることができる。
だから、大衆請けしやすい。

 表面的なパッケージを新装した懐古物は、保守的な臭いが薄れているので、良識派にはとりわけ請けが良い。
わが国の自称インテリたちに、クラシック音楽の愛好家が多い所以でもある。
いつの時代も新たなものは、少数者によって切りひらかれる。
多数決では、時代は進まない。


 前作ではハリー(ダニエル・ラドクリフ)が、級友のロン・ウィーズリー(ルパート・グリント)をともなって、悪い魔法使いと戦う話だったが、今回はハリーの一人舞台といっても良い。
ロンはより腰抜けになって、ハリーの足手まといになっていたし、ハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン)はあまり出番がないうちに、石にされてしまった。
そのために、ベッドで横になったきり、まったく動かないのだ。

 今回は、ハリーのスーパーマンぶりがひときわ目立ち、お話の活発さはだいぶ興がそがれてしまった。
それに次々に登場する話に、ハリーとロンは驚いてばかりいる。
驚愕の顔面が撮されたかと思うと話が進み、また驚愕の顔面が撮されて話が進む。
この繰り返しで、物語の展開に起承転結がない。
顔中を目玉にする驚きの表情は、ここという時の決め使って欲しい。
ワンパターンの多用は、興ざめである。


 校長先生(リチャ ード・ハリス)や教頭先生(マギー・スミス)の暖かい眼差しには、今回も相変わらずだが、ハリーは無前提的に正義で、他の子供たちとまったく違う扱いなのは、不自然きわまりない。
前作では、なぜ彼が魔法使いのエリートなのかが、徐々に明かされていった。
しかし、すでに彼の生い立ちが明示されてしまっているせいか、スーパーマン化した正義のハリーになってしまった。

 無条件にハリーを肯定する校長先生は、ハリーの信者といった感さえあり、他の生徒との関係で考えると、教育者としては大いに疑問が残る態度である。
正義と悪は鋭角的に対立して、物語なのだし、正義と悪のあいだで揺れる心こそ、観客の気持ちを掴むのである。

 ヒットした作品の続編が、前作を超えるのはやはり難しい。
第1作の様子で次作を制作するわけから、前作にどうしても拘束されてしまう。
ヒットした部分を寄せ集めても、面白くなるとは限らないし、まったく違う物語を作るのも難しい。
本来なら、最終編まで一挙に制作してしまうのが良いのだろうが、それでは興行の危険が大きすぎる。
いずれにせよ、続編は難しい。


 今回も、部分部分ではおもしろ所があるのだが、全体を貫く話の流れがよどんでしまっている。
ディテールの楽しさを除くと、ほとんど見るべきものはない。
また、子供が主役の映画は、続編を創るのがいっそう難しい。
というのは、子供が成長してしまうのだ。

 ハリーを演じるダニエル・ラドクリフにしても、前作より明らかに大きくなってしまい、前作にあったような可愛らしさから、やや大人びた感じになっていた。
ロンを演じるルパート・グリントに至っては、変声期に入ってしまったのか、声変わりし始めているような感じさえした。

 話を創るところから、受け継ぐところへと、監督の関心が移ると、どうしても手が縮む見本のような映画だった。

2002年アメリカ映画   

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