タクミシネマ         バースデー ガール

 バースデー ガール     ジェズ・バターワース監督

 イギリスのある銀行員の話。
女性にもてないジョン(ベン・チャップリン)が、インターネットでロシアから女性を娶る。
ナディア(ニッコール・キドマン)と名乗る美女が飛行場に現れたが、その裏にはもちろん複雑な事情が隠れていた。
彼女は英語が話せるはずだったのに、英語はまったく駄目。
ロシア語しか話せない。
会話がまったく通じないので、ジョンは途方に暮れる。
バースデイ・ガール [DVD]
劇場パンフレットから

 言葉は判らなくても、男女の仲である。
ナディアのベッドのでの積極的な行為により、二人は幸せな日々を過ごし始める。
そんなある日、突然に従兄弟と称する男性ユーリ(マチュー・カソヴィッツ)が、友人アレクセイ(ヴァンサン・カッセル)を連れて、ジョンの家に登場する。
最初から妙な具合だと思っていた観客は、突然の闖入者に物語の新たな展開を予測する。
しかし、話はなかなか進まない。
ミラマックス配給で、アメリカ映画と言うことになっているが、このあたりの展開はまったくのイギリス映画である。

 田園での三人の語らいがあり、闖入者たちの道化があって、何が始まるのか判らなくなった頃に、話はやっと新たな展開を見せる。
二人組がナディアを縛り上げ、彼女を解放して欲しければ、お金を用意しろとジョンに迫る。
狂言であるとはまったく疑わずに、ジョンは職場に行って銀行の金庫から、大金を奪ってくる。
それを二人組に渡して、ナディアを救おうと思ったら、案の定ナディアは二人組の仲間だったという話である。


 製作はアメリカかも知れないが、イギリスのインディ映画と言った方が適切である。
ニッコール・キドマンが出演してはいるが、まったくのマイナーな作りで、とても地味な映画の仕上がりである。
なぜこの映画がつくられたのか、理解に苦しむ。
とりわけ主張したい話があったとは思えないし、描きたかった場面があったとも思えない。
ロシアの後進性を描きたかったにしては、話が唐突にすぎる。

 つまらない映画だと言ってしまえば、身も蓋もないので、感じたことをいくつか書いてみたい。
痩せたので、美人度が落ちてしまったにもかかわらず、ニッコール・キドマンの演技は相変わらずに上手い。
しかも、ロシア訛りの英語は実に自然で、ロシア語の特訓と同時に、ロシア訛りの英語の特訓も受けたのだろう。
しかし、妙な二人組はフランス人だし、ネイティヴではない人たちの演技は何だか不自然である。

 ロシアが貧乏な国であるのは間違いないとしても、移民局の問題など話の飛躍が大きすぎる。
ナディアの妊娠の判明。
三人の仲間割れと、話の結末もこれまた月並みである。
最後は、ナディアが真面目なジョンに惚れ込んでしまい、恋人だった二人組を置き去りにして、彼女はジョンをロシアへと連れて帰る。


 ジョンが銀行から盗んだお金が、ロシアでは大金かも知れないが、あんなにご都合主義的なエンディングは了解できない。
ジョンは銀行からお金を盗んだので追われる身だし、さえないジョンのことだから、彼が主導権を握ることはあり得ないが、ロシアに行かなくても違う結末がありそうである。
初めから終わりまで、何か地味な印象が付きまとって離れなかった。

 ところで、ジョンが乗っているのは、旧式のMGである。
しかし、さえない銀行員の乗る車が、旧式のMGだろうか。
60年代の車を、ジョンが乗るのは不自然に思う。
エンジンこそ調子は今一だったが、外観はそれなりに手入れのされた車だった。
だから、この車の所有者はかなり気合いの入ったMG愛好者だろう。

 アストンマーチンなどと違い、MGは庶民の車だとは思う。
だから、さえない銀行員が乗っても良い。
しかし、さえない銀行員は、エスコートやフィエスタに乗るのではないだろうか。
車だからと言うのではない。銀行員がアルマーニを着たら、物語が成り立たないだろう。
それと同じ意味で、小道具というか舞台設定にも気をつかって欲しいと思う。
それとも、イギリスでは古いMGは、さえない銀行員の乗る車なのだろうか。


 イギリスの銀行が、旧式なシステムを温存しているのには驚いた。
銀行の金庫が、いまだに戦前のままだ。
わが国の機械製品は、どんどんと新たな製品に置き換えられるが、イギリスでは古いものを使い続けている。
考えれば、あれでも問題はないのだ。

 この映画でも、ワタナベ・ノリコという日本人の裏方さんが活躍している。
ヘアーメイクとクレジットされていたが、最近ではどんな映画にも、日本人が一人は登場すると言っても良いくらいに、日本人の活躍が目立っている。
劇場パンフレットによれば、彼女は「ピアノレッスン」や「アイズ・ワイド・シャット」などにも係わっていると言うから、以前からその世界では有名だったのだろう。
 
2002年アメリカ映画   

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