タクミシネマ         ドニー ダーコ

ドニー ダーコ  リチャード・ケリー監督

 最近のアメリカ映画は、大学や大学院卒の監督がメガホンを取っている。
そのため、かつてのような職人的な作りの判りやすい映画ではなく、きわめて観念性の強いものになっている。
この映画も、さまざまな寓話を下敷きにしながら、人間存在を時間という観念に絡めて、映像化しようと苦闘している。
とても難しい映画だが、サンダンスでは好評だったとか。
アメリカでは見る方も、観念の遊びが楽しめるくらいに、成熟したのだろうか。
ドニー・ダーコ [DVD]
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 朝靄のなか、若い男性ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)が、路上に倒れている。
やがて起きあがり、自転車にのって動き出す。
彼の家に飛行機のエンジンが落ちてき、妙な声が彼に「世界の終末まで、あと28日と6時間42分12秒」と告げる。
現在は1988年10月2日、午前0時である。
やがて妙な声の主は、フランクとなのるウサギ(ジェームス・デュヴァル)だと知れるが、これは彼の妄想で彼にしか見えない。
観客は物語の真意がつかめないまま、やや暗く見にくい画面は進んでいく。

 彼はかつて放火したことがあり、補導歴があり、21歳になるまで運転免許が取れない。
また精神的におかしいところもあるらしく、夢遊病のように夜になると徘徊する。
朝、ゴルフ場の芝のうえで隣人に起こされたり、タイムマシンを本気になって信じている。
精神安定剤がきれず、カウンセリングにも通っている。


 彼の通う高校が水浸しになったり、人生相談の男の家が火事になったりと、彼のまわりで不可解な事件が起きるが、どうも彼の仕業らしい。
しかし、この映画にとって、こうした出来事はどうでもいい。
最後になって、28日と6時間42分12秒のあいだの出来事を、時間を逆転させながら見せていたのだ、と種明かしされる。
彼は最初のエンジン墜落で、死んでいたのだ。

 アメリカの高校も管理社会化がすすんでおり、学生と真摯に向き合う教員は居づらくなっている。
物理の教員ケネス(ノア・ワオリー)は最先端の理論になると、職を失う恐れがあるといって、ドニーとの会話を拒む。
グレアム・グリーンの小説を、教材に使っていた教員カレン(ドリュー・バルモア)は、解雇されてしまう。
残ったのは、いずこも同じ管理化に、熱心な教員である。

 情報社会が行きついたところは、人間解放ではなく、がんじがらめの管理である。
しかも、「1984年」のように外部からの強権的な規制ではなく、人間の心自体を内部からコントロールするような優しい管理である。
強権的な抑圧に対しては、反発することもできるが、優しい管理は反発のしようがない。
真綿で首を絞めるように、ゆっくりと独立心を奪っていく。


 表ではセミナーの講師をしながら、裏では幼児ポルノを制作しているカニングハム(パトリック・スウェイジ)のような存在。
現実と観念が完全に切れている。
管理社会の現実を、若い人たちは言葉には表せないが、何となく感じている。
それがドニー・ダーコに象徴されるオカルト的な世界と通底する。
狂気と平生心はもう、紙一重だ。現実と観念の世界と言いかえても良い、虚実の境目が消失している。

 グレッチェン(ジェナ・マローン)という、セクシーな女の子が転校してくる。
彼女は母親と父親のいさかに巻き込まれて、虐待され家出同様に転校してきたという。
ドニーと仲良くなるが、物語とはあまり関係ない。
最後に死んだ彼の遺体が搬出されるシーンに、彼女は偶然にであって、死んだのは誰だと聞く。
そこでこの映画が種明かしされたことになる。
すべてドニーの観念の世界だったのである。


 1988年に時台設定しているが、問題意識は間違いなく現代的であることは判る。飛行機のエンジンが落ち、その下敷きになって死んだドニー・ダーコとだいうのもわかるし、死から28日と6時間42分12秒さかのぼった展開だということも判る。しかし、この映画が何をいおうとしていたのかは、正直よくわからない。これがサンダンスで好評だったとすると、私の感性も時代から遅れ始めたのだろうか。

 若い監督の初めての作品だが、若い監督の例に従って脚本まで自分で書いている。
映像はインディペンデント系のスタイルである。
ドリュー・バルモアが脚本に惚れ込んだとかで、初監督作品にもかかわらず、ジェナ・マローン、メアリ・マクドネル、パトリック・スウェイジ、キャサリン・ロスと有名どころが出演している。
画面が暗くて、顔の動きがわかりにくい。
顔の表情をもう少し見せて欲しい。

2001年のアメリカ映画   

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