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友人からこの映画の話をきいたときには、すでに一番館でのロードショーは終わっていた。 浅草の二番館で、「ベーゼ モア」との二本だてロードショーがあるだけだった。 しばらくぶりの浅草は懐かしさを感じ、映画館のなかも不思議な雰囲気だった。
交通課の警察官から、麻薬担当の刑事へと転じたジェイク(イーサン・ホーク)は、今日がはじめての勤務である。 今日の実地テストに合格しなければ、また交通課へと逆戻りがまっている。 一緒にまわる上司は、アロンゾ(デンゼル・ワシントン)といって、ロス・アンジェルス警察でもピカイチの刑事だった。 優秀な刑事というのは、どこでも型破りらしい。 アロンゾもご多分にもれず、規則や法律を無視してまで、犯人を追いかける暴君だった。 新人のジェイクは、警察学校での教育どおりに、犯人の人権も大切にしようとする。 しかも、捜査とはいえロシアの要人を殺してしまい、彼自身が殺し屋に付きまとわれていた。 100万ドルで示談という話はついた。 今夜の12時が、金を渡す期限だというのが、伏線にある。 正義感あふれる新人刑事への、思いやりをもった有能な先輩刑事の教育が続く。 巨悪をあげるために、ザコは見逃せ。 情報を提供してくれる人間を、手足のように使え。 最後に行きついたのは、巨悪を挙げるためなら、収賄も殺人もかまわない、という教えだった。 誰も反対ができないくらいに、アロンゾはなんせ有能な刑事なのだ。 現実は教科書どおりにはいかない。 それは誰でも判っている。 麻薬捜査では、末端のチンピラを捕まえても、たいした役にたたない。 密売の組織は残り、かえって用心深くなるだけだ。 密売の根本にいる大物を押さえれば、チンピラをたくさん捕まえるより、はるかに有効である。 そこで微妙なバランス感覚が要求される。 この映画は、悪人には悪の論理で、捜査にのぞむアロンゾと、ジェイクの正義感の戦いが主題である。 青くさい正義感がアメリカ民主主義を根底で支えるので、アメリカ映画は青くさい正義漢を主人公にすることが多い。 さまざまな障害をのりこえて、もちろん最後は青くさい正義が勝つのだが、アロンゾの発言にも正当性があるように感じさせる。 そのあたりがうまい。 痛快な娯楽映画でありながら、主題もきちんとしており、お金を出しても充分に楽しめる。 新人刑事のジェイクは、結婚して子供が生まれたばかり、幸せの頂点にいる。 家族のためにも出世したい。 交通課にいては、将来が知れている。 そのための麻薬担当へと転じたのだ。動機付けもうまい。 しかし、そこは一筋縄の世界ではなかった。 映画の展開は平凡ではあるが、デンゼル・ワシントンとイーサン・ホークの対比が良く、物語はなめらかに進んでいく。 強姦されそうな少女をジェイクが救ったのが、最後の伏線へとつながってくるのは、ややご都合主義とも感じるが、それでも話に破綻がない。 悪を悪で取り締まるアロンゾの行動が、結局は悪に足を取られ自滅していくさまを、きっちりと描いている。 人の支配ではなく法の支配が近代の原則だが、アロンゾは自分が正義だと錯覚している。 法の支配こそ人間の弱さを回避するものだ。 人の正義は、いつも同じとは限らない。 法の正義は、冷たいように見えるが、いつも同じである。 変わるのは、人間による解釈のほうだ。 冷たい正義こそ、じつは暖かいのだ。 たった1日の話だから、深くを要求するのは無理かも知れないが、もうすこし主題を追求して欲しかった。 デンゼル・ワシントンは、この映画でオスカーを取ったが、イーサン・ホークもそれに劣らず上手い演技だった。 幸せな新人刑事という設定は、「セヴン」とよく似ている。 この映画が「セヴン」ほどに評価できなのは、主題のせいでもあるが、主人公が二人に別れてしまったことだ。 アロンゾかジェイクか、どちらかの心情にもっと食い込み、悩む姿を描きこんでいくべきだろう。 友人を裏切るというジェイクの非難に、アロンゾはどんなに親しくても仕事上のつきあいであり、密売人が友人と言うことはあり得ない、と反応する。 これは納得する。 また、カラードの仲間に溶けこんでいるようでありながら、アロンゾは拒絶されている。 こうした二律背反を散りばめていながら、結局アロンゾの人間性の描写が単調にすぎた。 「フェイク」のような心理劇とは言わないが、活劇への流れをもう少し押さえても良かったように思う。 2001年のアメリカ映画 |
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