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どうやったら、これほどのつまらなさと、不快さをスクリーンに映しだせるのか。 この映画に、多くを語りたくないが、あまりの不愉快さに、なぜこうした映画できてしまったのか。 また、カンヌでは入賞までしている。 腹立たしさを書いておきたい。 それも映画評論のつとめだろう。
舞台はウィーンで、主人公は庶民といった感じの、中年女性エリカ(イザベル・ユペール)である。 このエリカは、ピアニストになるために母親(アニー・ジラルド)から、厳しくしつけられた。 しかし、母の夢だったコンサート・ピアニストになれなかった。 現在は、ウィーン国立音楽院のピアノ科の、しがない教授である。 ここまでならよくある設定だが、この映画の異常さは、中年になった女性が、いまだに母親に監視され、しかも彼女自身もその監視を受け入れていることである。 彼女はそうした母親に、逆らいながらも監視されることを喜んでいる。 嬉しさのあまりに母に対して、恋人にするようにキスをする。 母親からのサディスティックな視線を、快楽と感じている彼女は、音楽にしかもショパンにだけは独自の自信を持っている。 はたしてこうした設定が可能だろうか。 確かに表現は一種の病気だから、ピアノの演奏には抜群というのかもしれない。 逆に、倒錯していたから、コンサート・ピアニストになれなかったと解すべきか。 恋人ができることは、音楽のうえでも悪い影響だけではないだろう。 にもかかわらず、母親は自分が娘を独占したいばかりに、帰宅時間はもちろん、生活のすべてにわたって監視し続ける。 そこで、彼女が自分を取り戻せるのは、他人のセックスをのぞき見したり、自分の性器を傷つけたりといった、屈折した行為よってになってしまった。 いまでは自傷癖のある完全なマゾヒストである。 そんな彼女の前に、美少年とも言うべきワルター(ブノワ・マジメル)があらわれ、突如として恋をする。 中年の彼女に学生のワルター、という組み合わせをとやかく言うのではない。 恋に年齢はない。美男で遙かに年下のワルターが、なぜ彼女に恋したか、まったく説明されていないのである。 突然、何の意味もなく恋に陥った。 それもいいが、その後は意味をもって展開している。 最初は拒んでいた彼女が、これまた突然に心境の告白をする。 しかも、自分を縛って、虐めてほしいと、懇願するのである。 教え子の女の子に、ワルターが親切にしたと言うだけで、彼女のポケットにガラスの破片を入れたり、深夜の訪問に母親は警察を呼ぶと言っていながら、何事もなかったように話が進んだり、最後にはコンサートでの演奏を放棄したり、まったくもってむちゃくちゃである。 この監督は、いったい何を描きたかったのだろう。 女性が母親に監視されることからくる歪みだろうか。 主人公を否定的に描いてはいないから、そんなことはないだろう。 母親、中年女性、若い男子学生の三人がおりなす物語として、特別の主題があったとは思えない。 あえて主題を探れば、母親と中年女性をとおした女性蔑視だろう。 自立を阻まれた時代遅れ中年女性の、屈折した暗い心理をえがいた、そうとしかとれない。 しかし、マゾやサドといった屈折した心理は誰にでもある。 母親に厳しい監視を受けなくても、こうした心理になることはあるし、マゾやサドであることをもって良いとか悪いとかは言えない。 また母親の強い監視が、必ずマゾヒズムにつながることもない。 屈折した心理の原因を、性的なものへ還元してしまうこの監督は、古くさいフロイトの崇拝者だろうか。 時代遅れの感じが、きわめて強い。 映画は明るい主題に限ることはないから、暗い主題を扱っても良い。 しかし、差別を助長したり、蔑視をあらわにした作品は、決して高い評価を得られない。 この映画で、監督は監視を続ける母親の批判をしたとは、決して受け取れない。 むしろ監督の人格を疑う。 こうした上品ぶった、それいながら登場人物を蔑視する映画は、エロ・グロといった通俗的に反社会的な作品よりも、はるかに品性が劣ると思う。 動きの少ない画面、間延びしたカット割り、少ない台詞、顔のアップの多いカメラ、場面によって変わってしまう顔色、唐突に発せられるジュテームなどなど、演出には問題が多い。 主役を演じたイザベル・ユペールは、主演女優賞を獲得したというが、決して優れた演技ではない。 観客は前後関係から読み取るから判るのであって、彼女の能面のような表情から、心の動きを拾うのは無理である。 2001年のフランス・オーストリア映画 |
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