タクミシネマ       バニラ スカイ

バニラ スカイ
キャメロン・クロウ監督

 トム・クルーズ、キャメロン・ディアス、ペネロペ・クルスとスターをならべて、 なぜこの映画が「オープン・ユアー・アイズ」のリメイクである必要があるのか。
どうにも理解に苦しむ。
なぜリメイクされるのか、その必然性がまったく伝わってこない。
前作を再解釈する必要性はない。
バニラ・スカイ [DVD]
劇場パンフレットから

 「オープン・ユアー・アイズ」では、観念が現実を裏切るといった先鋭的な主題が前面にでていたが、この映画では人体の冷凍保存のほうに話の重心が移っていた。
そのために、気の抜けたビールのような作品になってしまった。
大衆に迎合した結果、明らかに失敗作となった。

 人体の冷凍保存と同時に、記憶の書き換えも買ったという話の展開は、前作とまったく同じである。
そして最後に、観念ではなく現実を求めて死へのダイビングするのも同じである。
しかし、「オープン・ユアー・アイズ」は、低予算ながら鋭い美意識と緻密な脚本で、がっちりと構成されていたのに対して、リメイクは温まったいものになっていた。


 「ミッション・インポッシブル」などの娯楽映画で、人気を不動のものにしたトム・クルーズが、 我を忘れて自分の賢さを見せたかった、そうとしか思えない。
アクション映画の主人公が、まじめで賢そうな映画に出たがることはよくあるが、彼らは何を考えているのだろう。
アクション映画はアクション映画で素晴らしいものであり、良くできた娯楽映画はダメなまじめ映画より遥かにハイブローだと思う。
「ミッション・インポッシブル」は良くできた映画で、当サイトでも星を獲得している。

 ブルース・ウィリスなどと同様に、アクション映画で有名になると、オスカーがほしくなるのだろう。
アクション映画ではオスカーの対象にならないので、トム・クルーズみずから「オープン・ユアー・アイズ」のリメイクを、プロデュースしたのではないだろうか。
それでなくては、「オープン・ユアー・アイズ」のように難しい作品を、あらためて映画化する理由がわからない。

 「Mrレディ、Mrマダム」「赤ちゃんに乾杯」「アサシン」など、ハリウッドはリメイクが好きだが、リメイクは難しい。
「Mrレディ、Mrマダム」こそ、ロビン・ウィリアムスの名演をえて、前作に勝るとも劣らない出来ばえだったが、多くの場合に前作を越えるのは難しい。
この映画は、観念をめぐる主題でありながら、前作と違ってシャープさがまったくない。


 前半のもたつきは、映画それ自体への興味を持続させず、観客を飽きさせてしまう。
もともと観念を扱うという退屈さを観客に強いるのだから、よほどの美意識とか緻密な展開を用意しないと、2時間がもたない。
この映画の退屈さは、創り手のほうに表現の内的必然性を、賭ける必要性がないからだ。
前作をなぞるだけでは、散漫で退屈になるのは自明であり、前作を越えることはできない。

 冒頭に登場するのは黒のフェラーリ、そして、黒のマスタング・シェルビイ・コブラという組み合わせ。
車への拘りはよくわかる。
この映画は、「オープン・ユアー・アイズ」より遥かにお金がかかっている。
しかも、大勢のエキストラが必要なパーティ。

 前作でも出演していたペネロペ・クルスが、同じ役で出演している。
前作では地元で有名だったかもしれないが、世界的には無名だった彼女の新鮮さを、うまく使っていた。
ペネロペ・クルスが「オープン・ユアー・アイズ」の最後に、白いドレスで立つ姿は、この映画を実に鮮明に象徴していた。


 おそらく「オープン・ユアー・アイズ」は、出演者たちはどんな映画になるのか、完成作品を見るまでわからなかったに違いない。
不可解なままで演技をさせられる演技が、揺れ動く表情にでて、それが映画を引き立たせていた。
無名だった彼女の新鮮さが、ぴたりとはまって使われていたが、2度目は茶番だという言葉どおり、彼女はすでにわかっていた。
彼女のその余裕が、この映画を薄めていた。

 恋人を出演させるのはよくあるが、トム・クルーズはペネロペ・クルスと仲が良くなったのは、この映画の後なのだろうか。
トム・クルーズがプロデュースして、キャメロン・クロウを監督に据え、ペネロペ・クルスをキャスティングしたとしたら、 この映画は最初から駄作に終わるように運命つけられていた。
2001年のアメリカ映画

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る