タクミシネマ           ミート ザ ペアレンツ

ミート・ザ・ペアレンツ    ジェイ・ローチ監督

 「オースティ・パワー」のジェイ・ローチが監督し、ベン・スティラーが主演するコメディである。
しかも、コミックの相方をつとめるのは、ロバート・デ・ニーロだという。
これを期待して見にいったが、見事に裏切られてしまった。
ロバート・デ・ニーロは、ややパターン化しているが相変わらず達者な演技で、ベン・スティラーも悪くはない。
脇役もそこそこである。それでもちっともおもしろくない。
これは主題のたてかたが、決定的に間違っているからである。

ミート・ザ・ペアレンツ [DVD]
 
劇場パンフレットから

 看護士のグレッグ(ベン・スティラー)は、パム(テリー・ポロ)にプロポーズしようとする。
彼女は小学校の先生で、子供たちが二人を応援する様は、楽しい映画になりそうな予感を持たせる。
しかし、彼女には厳格な父親ジャック(ロバート・デ・ニーロ)がいた。
この父親は元CIAということだが、実は現役のCIAでウルトラの保守派である。
というより、娘可愛いやが、すさまじいまでの娘の独占につながっていた。
娘の結婚相手は、すべて拒否する。
それも実に陰険な方法で、将来の花婿をしめだすのである。

 父親の娘への愛情、母親の息子への愛情というのは、屈折したものになりがちである。
異性の子供への愛情は、複雑な心境である。
とくに父親には深刻である。
手塩にかけて育てた娘が、わけも分からぬ男に手折られるとあっては、頭で判っていても心情的には納得できない。
これはよく理解できる。「花嫁のパパ」など、こうした主題で多くの映画が作られている。

 しかし、父親の執着も程度問題であり、娘はいつか親からはなれて、他の男性と一緒になる。
この映画のようになっては、醜悪である。
子育てに親の愛情は不可欠であるが、子供の巣立ちも不可避である。
親から子供がはなれなければ、社会は続いていかない。
親の独占的な愛情は、断ち切られなければならない。
つまり断ち切ることが正しいから、正しいことができない父親をおかしく感じるのである。
断ち切らないことを正当化しては、コミックにもならない。


 この映画は、グレッグのパムへの愛情、グレッグのプロポーズを徹底的に茶化す。
茶化すことが許されるのは、権力者とか金持ちとか、おごる者である。
彼等は正当な手段で、今の地位を手に入れ強者になったたのであろう。
しかし、強者には何とはない嫉妬を感じる。
強者たちへの無力感の表明が、茶化しなのである。
常人から羨望される人を、茶化すのは許されるが、弱いものを茶化すのは許されない。
主人公と同じように無力で貧乏な庶民たちは、スクリーン上とはいえ強者を茶化して、辛うじて溜飲を下げるのだ。
そこに笑いが成立するのである。

 この映画では、強者である父親が徹底的に肯定され、無力で若いグレッグがからかわれる。
最後に父親は反省せざるを得なくなるが、それとても充分に余裕が残されている。
強い父親の肯定という、この設定自体が間違いである。
それに父親の性格付けは良いとしても、グレッグの性格設定には大いに問題がある。

 医者の試験に受かりながら、医者より患者に親密に接することができるという理由で、彼は看護士になる。
アメリカでも、看護婦は医者の下という差別意識があり、それを描きたかったとしても、無理な設定である。
彼は上位3%の成績で、医者の試験に合格しているといっても、不自然きわまりない。
逆に看護士差別になりかねない。
患者との接触を求めているのなら、分業化の進んでいない途上国へ行けばいい。


 やさしい心がけのグレッグが、煙草を吸うのも理解できない。
最近のアメリカ映画では、煙草を吸うシーンがよく登場するが、看護士ともあろう者が煙草を吸うとは信じられない。
全体に無理矢理つくったコミックというかんじで、実に不自然である。
グレッグとパムの仲が戻って、二人がシカゴへ帰ってから、父親はビデオに映ったグレッグを確認する。
この父親はまったく反省しておらず、絶望的で不愉快なエンディングだった。

 物語の展開上、パムの役割は父親寄りにせざるを得なかったのだろうが、現実はああならないだろう。
もっとパムの主体性をうちださないと、女性差別になってしまう。
主体的に父親と渡り合うから、女性も自立するのだから。
蛇足ながら、浄化槽があふれる下ネタはいただけない。
それに露出が悪く、時々ひどくアンダーな画面があり、色調がまったく揃っていなかった。
それなりに達者な役者をそろえ、お金もそこそこにかけていながら、こんなにつまらない映画も珍しい。
というより、不愉快な映画になっていたのも珍しい。

2000年アメリカ映画

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