タクミシネマ       二番目に幸せなこと

二番目に幸せなこと   ジョン・シュレシンジャー監督

 中年になった女性アビー(マドンナ)が、ゲイの男性ロバート(ルパート・エベレット)とのあいだにできた子供を育てる話である。
そろそろ年齢的な限界の見えてきたアビーには、子供を作ろうにも相手がいない。
冷凍精子を買うにも気が進まない彼女だが、ひょんなことから酔っぱらってゲイのロバートとセックスをすると、たった一度のセックスで妊娠してしまう。

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劇場パンフレットから

 アビーとロバートは、生まれた子供のサム(マルコム・スタンプ)をことのほか可愛がる。
夫婦ではない二人だが、母親役と父親役を真面目にはたし、サムも二人にはとても良くなついている。
ところが、ある時アビーが投資銀行の上級役員の男性ベン(ベンジャミン・ブラット)から、プロポーズされる。
彼は仕事でニューヨークからロスアンジェルスに来ていたのだった。
アビーとベンが同棲すれば、子供は母親についてニューヨークへ行くことになる。
ロバートは子供を奪われまいと、裁判をおこす。
すると、彼は生物学的な父親ではないことが判明。
彼と子供の父子のつながりは、ゼロ歳から6歳まで養育したに過ぎなかった。

 裁判の過程で彼は父と呼ばれず、保護者と称されてしまう。
血縁のない彼には、現在の法律では共同養育者の権利は認められず、彼は子供を失うことになる。
最後には生物学上の父親が現れて、子供はカルフォルニア州内に留まるように仮の裁定が出て、映画は終わる。
愛する男女ではなく、親友の男女と子供が同居するのは、二番目の幸せだというのがタイトルの意味らしいのだが、その関係も不安定なのである。

 最近のアメリカにおける家族映画の流れにある一作品で、愛情こそ大切だと訴えるのは他の多くの作品と同じである。
「クレーマー・クレーマー」や「私の愛情の対象」などといった映画が、夫婦と子供という核家族の規範外の新たな家族像を描いてきた。
この映画は、血縁の両親が子供と同居しながら、両親は夫婦ではない。
それでも家族はうまくいっていた。
しかも、血縁の父親と思っていたゲイのロバートとは、実は血縁関係がなかった。
それでも彼は子供に愛情を注ぐ。
現在の法律は、血縁を親子の絆としているが、本当の親子関係を支えるものは愛情だけだ、と映画は訴える。

 この映画の主題は、まさに情報社会アメリカならではのものである。
新たな家族像への果敢な挑戦として、この映画の主題は高く評価する。
この主題ゆえに星を一つ付けるが、エンターテインメントの映画としては、残念ながら及第点は付けられない。

 前半のコメディ・タッチと後半の真面目な調子が違いすぎる。
最後のほうでは、息が詰まるくらいに真面目になってしまい、重い映画になってしまった。
もちろん現状が現状だから、主題の展開上で仕方ないとは言え、全体の調子をある程度整えて欲しい。
どちらかと聞かれれば、ハイブローであるコメディ調であって欲しかった。
次に、物語の展開が安易に過ぎる。
2人が同居するのは良いとしても、その同居はもっともっと周囲と軋轢を巻き起こすはずだし、2人のあいだでも葛藤が生じるはずである。
映画は7年間くらいを2時間で見せていたが、1〜2年の短時間の出来事に凝縮して見せたほうが面白かったのではないか。

 ゲイ役をやったルパート・エベレットは上手かったが、マドンナは演技が下手である。
エヴィータ」のようにミュージカル形式だと、彼女の歌に関心が集まり、演技には目がいかない。
しかし、シリアスな演技を要求されると、歌手と役者の力量の違いが明らかになってしまう。
ところで、マドンナはヨガを巧みにこなし、肉体は良く鍛えられているが、意外にウエストが太いのには驚く。
映画の中で使われた<アメリカン・パイ>という曲が実に良く効いていた。

 今日的な主題でありながら、平凡な画面構成、シルエット画面の無意味な多用、エピソードの煮詰め不足など、映画としては不充分だった。
映画は主題だけではない見本だが、この手の映画はさまざまな切り口で、何本も作られるべきだろう。
そうした試みの中から新たな家族のスタイルが生まれてくる。
「真夜中のカーボーイ」を撮ったジョン・シュレシンジャー監督がメガホンをとっているが、画像に新鮮さがなく、残念ながら彼は歳がいってしまっている。

2000年のアメリカ映画。


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