タクミシネマ        マグノリア

マグノリア  ポール・トーマス・アンダーソン監督

 本筋とは関係のない昔の絞首刑の場面から映画は始まる。
このシーンは最後にも登場するので、何か意味があるのだろうが、よく判らなかった。
そして、偶然なる概念の説明がある。
やがて、警官が登場し殺人事件が起きるが、それも映画の本筋とはあまり関係ない。
次に、危篤の床にある老人とその取り巻き、テレビの司会者やその出場者などが登場する。
しかし、これらの話が繋がっているのかというと、物語は二つに分かれたまま進み、
両者の関係は分かれたまま終わる。
大勢の人物を登場させるが、この映画には主人公がおらず、それぞれのエピソードから何かを読みとってもらおうという趣向の映画である。
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劇場パンフレットから

 死期を迎えている老人アール(ジェイソン・ロバーツ)は、若い頃に奥さんと子供のフランク(トム・クルーズ)を捨てた。
しかも奥さんの死はフランクが14才の時で、フランクだけが看取った。
当然フランクは父親のアールを恨んでいる。
アールは若い後妻リンダ(ジュリアン・ムーア)をもらっているが、看護人のフィル(フィリップ・シーモア・ホフマン)に看病されながら、すでに死にそうである。
リンダは看病で神経質になっている。
夫の末期に立ち会って、不実な妻だったと反省している。
アールの遺産目当てに結婚し、不倫もしたという。
しかし、今やアールを愛しており、遺産はいらないと言って、自殺を図る。

 リンダの留守中に、アールが捨てた息子に会いたいとフィルに告げると、
フィルは何とかフランクを探し出す。
フランクは「誘惑してねじ伏せろ」という本を書いて、もてない男に女性攻略法を伝授するパフォーマーである。
しかし、この特異なフランクの職業も物語とは関係ない。
フィルからの電話で、フランクは心的な抵抗を押さえて、アールの所へ駆けつける。
フランクは長年の屈折した心境を押さえきれず、アールのベッドで愛憎にまみれた慟哭をあげる。

 もう一つの話。30年も続いたクイズ番組の司会者ジミー(フィリップ・ベイカー・ホール)は、ガンに冒されあと半年の命といわれながら、番組を続けている。
彼には奥さんのローズ(メリンダ・ディロン)と娘が一人いるが、娘のクローディア(メローラ・ウォルターズ)は家出したまま。
ジミーが娘に会いに行くが、手ひどく拒否される。
彼のクイズ番組では、スタンリー(ジェレミー・ブラックマン)を代表とする子供チームが、あと2日で新記録をうちたてようとしている。
以前この番組にでて天才少年と言われた男ドニー(ウィリアム・h・メイシー)は、今は落ちぶれて家電販売店の店長を首になる。
しかし、このエピソードも映画の本筋とは関係ない。

 以上の話を結びつけるのが、警官のジム(ジョン・C・ライリー)である。
彼は最初に描かれた殺人事件の捜査者であり、近所からの苦情によってクローディアの家に調査に行く。
何と彼は、彼女に惚れ込む。
そして、デートの帰り道、ドニーがこそ泥に入るのを発見し、やめさせて改心させる。
辛うじて、ジムによって映画のまとまりが取れているといえば言える。
しかし、登場人物が多すぎて、物語が散漫になり、観客は展開についていけない。
ロバート・アルトマンも大勢の人間を登場させるが、この映画と違って最後は上手くまとめあげる。

 通常の映画では主人公が登場し、主人公の動きにそって物語は展開するので、
観客は主人公を追うことによって物語を理解し、主人公に感情移入しながら見ることができる。
しかし、この映画では物語の芯になる主人公がいない。
そのため、観客は監督が何をいいたいのか理解できないし、映画に没入できない。
最後になって、ジミーが自殺したり、リンダの自殺未遂があったりと、物語に決着を付け始めるが、
終わりどころが何度もありながら、登場人物が多いために簡単に終われない。
それぞれの人物を、また説明をしなければならなくなっている。

 この映画はいったい何を言いたかったのだろう。
運命に翻弄される人たちか、それとも神様か。
許される生き方と許されない生き方か。
それも最後になって、辛うじて想像するだけで、結局この映画の主題は判らずじまいである。
それぞれのエピソードは面白く、何らかの才能は感じるので、もう少し煮詰めてほしかった。
脚本も監督が書いているとか、余計にもっと短くである。 

 この映画は絶叫型の演技が多く、とても疲れた。
最近は絶叫型の演出は流行ではなく、何げに押さえた演技のほうが言いたいことが良く伝わる。
出演している俳優さんたちは達者な人が多いので、この絶叫は演出の結果であろう。
ジュリアン・ムーアなど、台詞のほぼすべてが絶叫でかわいそうなくらいだった。
それと、音楽の入れ方が強すぎて、画面への没入を妨げている。
前作の「ブギー・ナイツ」も2時間半と長かったが、この映画も3時間とながい。
若い監督が渾身の力を込めて作った映画だということは判るが、ちょっと力が入りすぎており、3時間を越えるのはいかにも長すぎる。

1999年のアメリカ映画。


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