タクミシネマ        カーラの結婚宣言

カーラの結婚宣言    ゲイリー・マーシャル監督

 わが国でも、「おかえり」という同様の主題を描いた映画があった。
知的障害者の生活や結婚という今後の社会では、もっとも重要な問題になるだろう主題を描いている。
カーラ・テイト(ジュリエット・ルイス)は、三姉妹の末っ子として生まれ、軽い知能障害をもっていた。
小学校に入る頃、彼女は一人親元を離れて特殊学校に入学した。
そして、映画が始まる今、父親(トム・スケリット)に迎えられて、そこを卒業してくる。

 テイト家では、カーラの帰還を全員で迎えた。
家族の誰もが彼女を愛し、暖かく迎え入れた。
母親のエリザベス(ダイアン・キートン)は、カーラは自立不可能とみなし、何とか家の中で平穏に生活してほしいと願う。
しかし、彼女の言動は物議をかもしだす。
彼女はまず、高校へ入りたいと言い出す。
普通高校への入学は無理だと、母親は考える。
その反対を押し切って、何とか高校へ入学する。
そこでボーイ・フレンドができる。
ダニー・マクマホン(ジョバンニ・リビージ)も、やはり軽度の知的障害を持っており、孤独な毎日だった。

 知的障害者だったがゆえに、カーラもダニーもいままで家族以外の愛情を知らなかった。
誰かに興味をもたれたり、愛された記憶がないのである。
そうした彼等は、誰かに愛情を持たれた初めての経験に感動し、紆余曲折を経ながらも結婚へとたどり着くまでを描いている。
映画自体は、良い側面ばかり集めたお話のようで、現実はあんなに単純ではないだろう、と思わせるほど楽天的である。
テイト家がきわめて裕福だったりと、展開する物語が出来過ぎている。
「おかえり」の方が、ずっと切実感があった。
しかし、この映画が主張していることつまりカーラの台詞は、まったくもって正当でもっともなことである。

カーラの結婚宣言 [DVD]
劇場パンフレットから

 娘を心配するがゆえに、内輪に生きさせようとする母親。
この母親の気持ちが良く判る。普通高校へ行っても、落第するのが目に見えている。
まず、入れるかどうかも判らない。
アパートで一人生活をしたいというカーラ。
カーラが年頃の女性であるがゆえの心配もある。
そんな危ないことをしなくても良いと考える母親。
しかし、いつまでも家族の庇護のもとにいるつもりはなく、自立をめざしているカーラ。
次から次へと母親と衝突する。
そのあいだに父親と、二人の姉たちヘザー(サラ・ポールソン)とキャロライン(ポピー・モンゴメリー)が入って、カーラの自立を助けていく。

 非力な女性が自立した。
身体障害者が自立した。
彼(女)等は、体力が社会の根底を支えていた時代には、どうしても保護される対象だった。
保護は差別へと連なり、自立の道は遠かった。
いまや、肉体的な劣性はハイテク技術がカバーし、女性や身体障害者は弱者ではない。
彼(女)等は普通の社会人として、社会活動や生産活動に参加できる。
いまでは身体障害者に、人間の尊厳を云々する人はいない。
しかし、肉体的な力が不要になるに従って、頭脳労働へとシフトし、知的な能力が厳しく問われるようになった。
知的障害者は、頭脳という人間の人間たる所以を問われるので、人間の尊厳そのものが問われることにもなってしまう。

 農耕社会なら、少しくらい知的障害があっても仕事はあった。
農仕事はもちろん職人仕事だって、手伝い的な人間が必要だった。
仕事ができれば、なんとか生活はできた。
しかし、コンピューターの普及は、単純肉体労働を消滅させてしまった。
この映画の中で、ダニーはパン屋で働いているが、その仕事も何時まで続くか判らない。
自動的にパンを焼く機械が入ってきたら、彼は失業だろう。
また、彼が独立したとしても、隣に安くて美味いパン屋ができたら、彼の店はひとたまりもないだろう。
自然食品という妖しげな理由は売り物になるが、ダニーが知的障害者だからという理由では、客は彼の店には買いに来ないのだ。

 人間の形をしたすべての人の自立。
これが情報社会でのスローガンになるだろう。
健常者でも間違ったり失敗したりする。
人間は誰でも失敗から学んでいく。
失敗は多いかも知れないが、障害者もまったく同じである。
失敗や間違い恐れていたら、学ぶことができない。
それはもちろんその通りである。
しかし、現実にはきわめて難しい。
映画だからカーラとダニーは結婚したが、彼(女)等の経済生活が順調にいくとは考えられない。
どうやって稼ぐだろう。
それに子供ができたら、その子供を育てられるのだろうか。
難問は山積みである。
そうしたことを映画製作者はもちろん知っていながら、人間の尊厳のためにこの映画を撮っている。

 カーラの姉のうち、長女はゲイである。
彼女も母親と衝突している。
次女だけが普通の結婚をするので、母親ははりきって最高の結婚式を挙げる。
テイト家の世間的な見栄のためである。
健常な二人が祝福されて結婚するのが、何よりも正しいかのように描かれるが、カーラは自分たちだけの小さくて質素な結婚式を挙げる。
しかも、当初は母親と衝突し、母親は結婚式を欠席しそうになる。
もちろんカーラのほうが正しいことは自明だが、台詞が細かく書き込まれていて、様々に考えさせられた。
カーラの正しい主張が、厳しい現実と交錯するのが予測できるだけに、見ているのが辛い場面もしばしばだった。

 映画としては前半がのろく、2時間を超える緊張感は持続できていない。
もう少しカットして、1時間30分くらいの仕立てにしてもいいように思う。
ジュリエット・ルイスが麻薬から立ち直った第一作だった。
彼女は演技が上手かったが、この役にはちょっと年齢がいきすぎていた。
テイト家の人たちの設定が、理想的すぎる感じがしたと言うのは、ただケチを付けるだけだろうか。
正義感によって作られた映画特有の息苦しさもわずかながらあったが、最後は不覚にも涙がでてしまった。
原題の「The Other Sister」のほうが、監督の主張はよく判る。

1999年のアメリカ映画。


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る