タクミシネマ        大安に仏滅!?

大安に仏滅 !?      和泉聖治監督

 前作「お日柄も良くご愁傷さま」に、引き続き作られた映画である。
前作が評判良かったと言う話も聞かないのに、続編が作られるのが、どうもよく判らない。
しかし多くの場合、続編のほうが力が落ちるのだが、この続編は同じような仕立てでありながら、違った印象を与えた。
設定は同じでも、主題が移ったせいだろう。

 勤続30年にして部長になった西岡哲夫(橋爪功)は、一人になった父親を郷里の青森から、新築なった自慢の新居へ呼び寄せる。
ところがこれがどうも欠陥住宅らしい。
床は傾く、扉の開閉は渋い、雨は漏る。
そこへ、長女の結婚。
息子は西岡の勧める道を嫌って、コメディアン修行にて家出同然。
平穏無事に来た彼の人生が、ここにきて軋み出す。
長女の結婚式の当日、近所が火事になる。
延焼を防ぐためにあわてて帰宅。

 映画としては、低い美意識、さえないカメラワーク、ずさんな展開といった感じで、決して誉められたものではない。
橋爪功、吉行和子、松村達雄といった芸達者をそろえていながら、映画が面白くないのは、ひとえに脚本がなぜ今この映画を撮るのか、その理由を理解してないからである。


 前作では、吉凶事が同時に到来する、ドタバタのおかしさを描いていたが、今回は家族の大切さや暖かさを、強く打ち出していた。
家族の問題を扱うのは良いのだが、家族に対する今後の展望が認識できていないために、既存の父親が対応不能となっていながら、その父親を肯定してしまっている。
父親の役割は一家の経済を支える人間でも、それに対する感謝や尊敬はない。
そして現実は今の父親たちの考えでは、まったく対応できなくなっている。
だから、息子が家出をするのだし、父親が頑張れば頑張るほどピエロのように見えてくる。

 この映画の製作者たちも、家族が上手く機能していないことは理解している。
しかし、今までの父親像=家族観では対応できないから、世界中で家族の問題が云々されているのに、結論はまたもや既存家族への回帰である。
もっと家族が崩壊し、家族の形が見えなくならないと、家族の役割や将来像が理解できないのだろうか。
アメリカの家族がバラバラになりながらも、人間の尊厳を取り戻すために奮闘している理由は、この映画の製作者たちはまったく判ってない。

 最後には、嫁ぐ長女に父親への感謝を口にさせ、私も両親のような夫婦になりたいと言わせる。
そして、コメディアン志望の息子にも、親を肯定し感謝の言葉を言わせている。
個人的に、親と子供の繋がりがあることは良いことだし、親に感謝するのも良い。
しかし現在の問題は、世代の背負っている価値観の衝突であって、個人的な問題ではない。
それを個人の問題に還元してしまうところに、映画製作者たちの頭の悪さが見える。

 この映画製作者たちだって、現状が据わりの悪いことは認識している。
だから、現状の親たちをカリカチャライズした、吉行和子の演じる無責任な主婦の演技は迫真だし、橋爪功の西岡にしてもピエロになっている。
映画製作者らも、現実の家族が機能不全であることも判っている。
これを見る限り、現実は理解しているように思う。
にもかかわらず、結論は現状の肯定になってしまう。
現状は駄目と言っておきながら、結論は現状肯定という論理矛盾である。
だから結局、この映画で一体何が言いたかったのか、理解不能にしている。
時代の先が読めない映画製作者は、現状を並べるだけにして、結論を出さない方がいい。
時代を懐古するのは醜悪である。

 瞠目すべきことに、前作と違って、若者たちが演技していた。
若者の問題は、若者自身の問題ではなく、評価するほうの問題である。
1998年日本映画。


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