タクミシネマ        ラン ローラ ラン

ラン ローラ ラン  トム・ティクヴァ監督

 ベルリンでの話。
ヤクザのチンピラであるマニ(モーリッツ・ブライプトロイ)から、ローラ(フランカ・ポテンテ)に電話が入る。
約束の時間にローラが現れなかったので、自分は金の入ったバックを電車の中に忘れた。
10万マルクはいっており、それを親分に届けないと、殺されると泣いている。
ローラが約束を違えたから金がないのではなく、ただ自分が忘れただけなのに、ローラに泣きつくマニという男。
それを助けるローラという女。
2人の神経はどういう構造になっているのだろうか。

 11時40分、街の真ん中の電話ボックスから、マニがローラに電話している。
12時までに10万マルク必要だ。
時間は20分。
それを聞いたローラは、任せておけとばかりに家を飛び出す。
そして、どこへ向かってだか、走る。
彼女の走る姿が格好いい。
真っ赤な髪を風になびかせて、やや太めだが均整のとれた体で、大股に走る姿は力強い。
おそらく走る競技をやっていただろうフォームで、息も乱さず駆け抜ける姿は、それだけで絵になっている。
走る姿がとてもセクシーである。
ローラが走るシーンには、音楽が小気味よくかぶさって楽しめる。

ラン・ローラ・ラン [DVD]
前宣伝のビラから

 この映画は3つのオムニバスからなっており、20分間に起きるだろう事を3つ見せる。
まず、12時までにはお金は間に合わず、マニはスーパーマーケットへ強盗に入り、ローラもそれに付き合う。
お金を奪って外へでると、たちまち警官に包囲され、ローラは射殺される。
次は、ローラが銀行の頭取である自分の父親を脅して、10万マルクをマニに届けるが、マニは目の前で車にはねられて死んでしまう。
最後は、ローラがカジノで10マルクを調達し、現場に着くとマニはいない。
しばらくすると、忘れた金を独力で奪い返したマニが、ヤクザの親分の車から祝福されながら降りる。
そこで2人はハッピーエンドである。

 リズム感あふれるテンポの良い展開だが、映画として、何が言いたかったのか判らない。
漫画が挿入されたり、カットが短く切り替えされたり、ビデオを使ったり、技法的には凝っている。
しかし、ローラの走るシーンを除いてしまうと見るべきものはない。
部分的には、ローラの父親が銀行の頭取で、不倫相手の重役の女性が妊娠した話とか、救急車が大きな透明ガラスに衝突するシーンなど面白いものもあるが、全体に主題が希薄なのである。
だから、フィクションとしての映画を見たという感じがない。

 3つの物語を見せるのは、まったくかまわないが、それを通じて何か主張してもらわないと、観客はキツネにつままれたままである。
イフ オンリー」や「スライディング ドアー」など、もし、こうだったらという設定は最近多いが、それらはそうした設定をしながらも、きちんとした主張を持っている。
だから、仮定が意味を持っている。
しかしこの映画は、ただ3つの話を並べて見せただけであった。
リズム感は良かったが、窮地に陥った恋人を救うために女性が走るのは、女性が強くなった時代を表しているとは言え、それだけでは映画がもたない。 

1998年のドイツ映画 


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

 「タクミ シネマ」のトップに戻る