タクミシネマ              スライディング・ドア

 
☆ スライディング・ドア   ピーター・ホーウィット監督 

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スライディング・ドア [DVD]
 ロンドンを舞台にした映画だが、女性には何とも皮肉な結末である。
ある朝ヘレン(グウィネス・パルトロウ)が、遅刻しながらも出社すると、突然に首を宣告される。
うなだれて帰宅する途中、地下鉄の扉が目の前で閉まる。
しかも、脱線事故で次の電車は来ない。
仕方なしにタクシーで帰ろうとするが、ひったくりにあって転倒。
あわてて病院へ。
治療を終えて、やっと自宅に帰り着く。
同棲中の男性は驚きながらも、慰めてくれる。

 ところが映画は、もう一つの場面を見せる。
実は彼女が家を出たあと、同棲している男性が、他の女性を連れ込んで浮気をしていた。
地下鉄にかろうじて飛び乗った彼女は、男性が他の女性とことの最中に帰宅してしまう。
もちろん二人は大喧嘩になるが、二つの物語を交互に見せながら、映画は展開する。
地下鉄に乗れなかったか乗れたかが、彼女の運命を大きく変えてしまう。

 無事に帰り着いたがゆえに、浮気の現場に踏み込んでしまうヘレン。
関係はたちまち破綻する。
しかしその後、彼女は新たな恋人を見つけて、以降は公私ともに順調に発展していく。
もう一方のヘレンは、地下鉄に乗れなかったがゆえに、浮気の現場に居合わせなかった。
浮気の状況証拠がありながら、決め手がないがゆえに半信半疑になり、二人の関係はぎくしゃくしたものとなっていく。
おまけに新たな仕事が見つからず、安労働のウエイトレスなどを掛け持ちし、彼女は疲労困憊する。

 この映画は、単に別々の展開としてみせるのではなく、二つのケースを絡めて似たような話として見せる。
ヘレンは両方の話で妊娠するし、最後は怪我をして救急車で病院にかつぎ込まれるのも同じである。
そこまでの話のもって行き方は、なかなかに上手い。
両方の話がうまくつながっているよういて、別の話となっており、不自然さは全くない。
細かいストーリー展開も、ややご都合主義的ながら、たくさんに組み込まれており肯首できる。
まったく違う展開を、上手く一本の映画に仕立て上げている。
しかも同じ主人公である。

 二つの話を、別々に展開してみせるのは優れた手法であり、それはそれなりに上手い。
この脚本には相当の苦心があっただろう。
この映画で見るべきは、やはり主題である。
浮気の現場に踏み込まなかったヘレンは、それから公私ともに恵まれず、誰も助けてくれない中で、事故って入院する。
もう一方の現場に踏み込んでしまったヘレンの方は、新しい恋人が現れ、彼の忠告に従って新会社を作る。
それが上手くいくが、やはり事故って入院する。

 両方とも妊娠した上に事故るが、前者は流産し命は助かる。
そして、看病している男性に最後通告、「立ち上がってドアを開けて外にでて、そのまま二度と帰ってこないで欲しい」という。
彼女ははっきりと男性との同棲生活を清算し、晴れて一人で退院していく。
ところが後者は、そのまま病院で死んでしまうのである。
つまり、幸福をつかんだが男性に頼った女性には、死という結末を与え、男性を振りきった女性には、命を与えたのである。

 ここではもはや、男女の二人が幸せに浸るといった、古典的な恋愛はない。
女性の運命は、いまだに巡り会った男性に左右されることが多いから、どうしても女性は男性に頼りがちである。
男性の助力を得た方が、社会的には成功しやすい。
それはいまだ男性支配の社会だから当然である。
ところがこの映画では、それを見事に否定する。
社会的には成功したが、男性に頼ったヘレンの結果は死。
もう一方、精神的自立しかも望んでの自立ではなく、男性の裏切りにあってやむなく自立したにすぎないヘレン。
にもかかわらず、彼女は颯爽と退院である。

 恋愛感情とは錯覚かも知れないが、この映画は男女による幸せな共同関係を認めないのである。
恋愛に憧れるのは、男女ともに同じだとしても、その関係によって実利的な利益を受けるのは、女性であることが多い。
男性は結婚しても働き続ける。
しかし、女性には二つの選択肢がある。
しかも、男性のコネや情報の方が広い。
女性は無意識のうちに頼っている。それでは女性の自立はないと、ピーター・ホーウィット監督は言う。
当然といえばそれまでだが、女性には厳しい結論である。
状況は、本当に個人化してきた。イギリスとアメリカの共同製作による映画である。
1997年のアメリカ・イギリス映画。


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