タクミシネマ        逢いたくてヴェニス

逢いたくてヴェニス       ビビアン・ネーフェ監督

 ドイツのどこかの都市での話。
売れない画家ルイス(ゲデオン・ブルクハート)とウエイトレス・エバ(アグライア・シスコヴィッチ)のカップルが、二人の子供を育てていた。
結婚して最初の5年間は、エバが生活を支える。
そして、5年後にはルイスが生活を支えるという約束だった。
しかし、子供が生まれて結婚7年たったが、生活はエバの肩にかかったまま、ルイスには収入がなかった。
そんななかでルイスは、銀行の女性副支店長シャルロット(ヒルデ・ファン・ミーゲン)と浮気をしていた。

逢いたくてヴェニス【字幕版】 [VHS]
 
劇場パンフレットから

 ルイスとシャルロットは、ヴェニスへ一週間の浮気旅行に出る。
それを知ったエバは怒り心頭に達し、シャルロットの夫であるニック(ハイノ・フェルヒ)を誘拐して、二人の子供とヴェニスへと向かう。
最初は、ルイスを浮気の相手から取り戻すつもりだったが、ニックとの2日間のアルプス越えの旅行で心が変わってしまう。
最後はルイスを捨ててニックを愛するようになるというお話である。

 人物設定が面白く、シャルロットはばりばりのキャリアウーマンで、その夫のニックは有能な弁護士である。
この二人はいかにもドイツ人らしく、決められた時間に決められた行動をし、整理整頓されたなかに規則正しく生きている。
子供はおらず、もちろん裕福である。
それに対して、ルイスとエバはボヘミヤンの自由人。
ぐっちゃぐちゃに散らかった家に、親子4人が自由に住んでいる。

 ルイスとシャルロットの関係は、欲求不満のシャルロットがルイスの肉体に惚れ、セックスの魅力に取り付かれていたからだった。
不倫の関係ゆえに、自由な逢い引きができない。
そこでヴェニスへの旅行となる。
しかし、ヴェニスには行ったけれど、長い時間を二人だけでいれば、気に障るところも目に付くようになる。
最初は熱々だった二人も、最後にはケンカ別れ同然となる始末である。
それに対して、困難に立ち向かうエバとニックの二人は違う。
おんぼろ車で出かけたが、お金がないエバはアルプス山中では、無人の納屋にねぐらを求めて転がり込む。
一夜明けてみれば、車のエンジンからブリーフケースやカードまで一切が盗まれている。
仕方なしに、ヒッチハイクでヴェニスへと向かう。

 誘拐されたニックは、最初のうちこそ非協力的だったが、いつの間にかタフなエバに好感を持ち、二人の子供たちに愛情を持ち始める。
管理社会の上層に住むニックやシャルロットの虚弱さと、ボヘミヤン的なルイスとエバ。
エバのタフさが管理社会批判になっているのだが、しかし、この映画は女性監督の作品らしく、女性のタフさを売りにしている。
ルイスをリードするのはシャルロットだし、何時でもセックスOKのシャルロットに対して、不能になってしまうルイス。
ムール貝を食べてあたってしまうルイス。
画廊を開くと持ちかけるシャルロット。
それを気ままにキャンセルするシャルロット。

 二人の子供を抱えて、万引き、無銭飲食、ヒッチハイクと生きることにタフなエバ。
彼女は車の故障すら直してしまう。
それに対して、水が怖いニック、高所恐怖症のニック、挙げ句の果てには泳げないニックを助けるエバ。
男性がうわべの格好だけはつけるが、実質はとにかく女性のほうがパワフルである。
どうやらドイツにもフェミニズムが浸透し始めたようだ。
フェミニズムの浸透は、情報社会化が浸透する先行現象だから、ドイツも近々ようやく眠りから目が覚め、アメリカを追いかけ始めるだろう。

 ドイツでも、ヒモ同然のルイスが金持ちの女性と浮気しても、最後にはルイスを捨てる展開にすることができるようになった。
しかも男性を恨まないで、元気よく男性を捨てて離れていく。
これは女性たちに経済力が付き、裕福ではないが自力で生活できるようになった女性たちの自信の表れだろう。


 この映画の最後では、エバはニックを助けるという形で愛情表現をしている。
ここには生活のために、男性を必要としているのではなく、裕福な経済力ある男性を女性が救う逆の構造が見えている。
しかしこの救い方は、母性的とも言うべき女性の自然性と通じるところがあり、この監督は男女の同質化へと完全には吹っ切れていないようだ。
バンディッツ」でもそうだったが、合計特殊出生率の低いドイツと日本では、母性へのこだわりが強いというのは興味ある現象だ。

 登場する四人の肉体がいずれもがっしりしており、われわれ日本人の身体とは比べものにならない。
とりわけニックの厚い胸板は、洋服人種の体型である。
そして、エバにしても、小柄ながら豊満な胸、細いウェスト、大きなお尻と、人種の違いを感じさせる。
ドイツ人の肉体から、何となくナチ的な恐さを感じるのは、筆者の偏見だろうか。
ナチの妖しい美しさを持つ制服と、ドイツ人の身体がよく似合うように感じる。

 二組の男女が出てきて、子供が二人とくれば、その顛末はおおよそ見えている。
しかも、小さな子供が登場するとあれば、日常生活のディテールが描かれるのも予想どうりである。
特別にシャープな主題や凄い展開を持った映画ではないが、面白おかしく楽しめる二時間である。
ちょっと気になったのは、勇敢にも冬のヴェニスの海へ飛び込んだエバだが、彼女の平泳ぎは妙な形で、おそらく泳げないのだろう。
彼女を水中から誰かが支えていたように思う。
着衣のままだから、クロールはできず平泳ぎが正解。

1998年のドイツ映画。


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