タクミシネマ             バンディッツ

 バンディッツ     カーチャ・フォン・ガルニエ監督

 ドイツ版「テルマ アンド ルイーズ」である。
ロックバンドを組んだ四人の女囚エマ(カーチャ・リーマン)ルナ(ヤスミン・タバタバイ)エンジェル(ニコレッテ・クレビッツ)マリー(ユッタ・ホフマン)が脱走する。
ドイツ国内を逃げ回り、その間に演奏をし、最後には国外へ逃亡することを予測させるところまでを、ちょっと古いハードロックにのって、幻想的なシーンとあいまって、最後まで観客を引きつける映画である。

バンディッツ [DVD]
劇場パンフレットから

 刑務所の中でのバンド結成のシーンから始まり、外部での演奏が認められ護送されていく。
その途中で脱走する。
知り合いの外国航路の船がでるまでの三週間、彼女たちは隠れて過ごさなければならない。
レコード会社に押し掛けてお金をかすめたり、クラブで演奏をしたり、警官に包囲されて人質を取って逃亡したり、話は楽しく展開する。
彼女たちの曲が電波にのり、行く先々でサインを求められたりして人気者になるが、なにせ脱獄者である。
いつも警察に追われている。

 女性たちが既存の権威に逆らって、自分たちの青春を歌い上げるのは、もちろん1991年に公開された「テルマ アンド ルイーズ」を連想させる。
あれから6年、1997年にドイツで生まれた女性の青春映画である。
この6年の差が、アメリカとドイツの情報社会化の差だろう。
この映画は、女性監督のカーチャ・フォン・ガルニエによって撮られており、いよいよ女性の時代も本物になってきた。

 映画として見ても、大勢の人を動かし、上手いタイミングで音楽を入れ、意欲的な画面処理。
観客の関心を最後まで引きつけるストーリー展開など、なかなかに良くできている。
しかも、アメリカ映画と違って、むやみに拳銃を発射せず、人を殺すことが少なく、見ている方の神経が寒くなることもない。
音楽の演奏もそれなりに上手い。
完全に合格点の映画であるが、現状から見ると不満な点も多いことも事実である。

 女性の自立をロックに載せて語るが、そのロック自体がすでに古く、映画のなかでもジャニスの話題が出ていたが、最先端の音楽ではない。
それも理解できる。
最先端では性が無化しており、もはや最先端の音楽で、女性の自立を語ることは出来なくなっている。
ハードロックが既成の権威への反抗だったから、女性たちの音楽でもハードロックに載せやすい。
しかし残念なことに、ここで聴いた音楽は、すでに男性ロッカーたちが演奏したものばかりである。
もちろん新曲なのだが、この音楽のテイストが、すでに男性の確立したスタイルである。
女性たちが男性のそれをなぞっていると感じられてしまう。

 今ドイツでは、女性たちの自立の時とすれば、彼女たちにとってハードロックで良いのだろうけれど、「テルマ アンド ルイーズ」は時代状況に真っ当に対峙していた。
そうした意味では力がないと言わざるを得ない。
むしろ「テルマ アンド ルイーズ」が、いかに凄い映画だったかが判る。
なかでも主役を演じたエマの身の上話で、子供を男に流産させられた怨念のような話が出てくるが、子供を自立のバネにするのはすでに古い。

 出演している俳優たちは、とてもチャーミングで、四人のメンバーはそれぞれに魅力的だった。
とりわけ主役を演じたカーチャ・リーマンがゲルマン系の美人で、とても魅力的だった。
人質になる男性ヴェルナー・シュライヤーが、とても美男である。
映画を作るには自分の美意識を展開するわけだから、女性監督が美男の男性を好むのは当然の話で、男性監督が美人女優を好むと何ら変わりがない。
何を美とするかは各人各様だが、美なるものが存在し、美を見る快楽があることは認めなければならない。

1997年のドイツ映画。


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