タクミシネマ              ティコムーン

 ティコ ムーン    エンキ・ビラル監督

TAKUMI−アマゾンで購入する
ティコ・ムーン [DVD]
 未来の月が、舞台になっているフランス・イタリア・ドイツの合作映画である。
首に青い痣が出来る病気をもったマクビー一族数人が、月の世界を支配している。
その痣の拡大を止めるため、大統領は20年前にティコ・ムーンから脳を移植をした。

 手術直後、建物が全焼し、ティコ・ムーンは死んだことになっていた。
しかし、愛人だった大統領の奥さんが、彼を逃がし、反体制側に送り込んだのだった。

 空気の汚染や重力の消滅など、月の環境が悪化し始める。
国連はマクビー一族の支配を止めさせるために、月に暗殺者を送り込む。
大統領はティコ・ムーンが生きていると知り、臓器提供者として彼を捜す。
国連からの暗殺者と大統領派との攻防のなかに、大統領の秘密警察官であるレナとティコ・ムーンの恋を絡めて、映画は展開する。

 月に人工環境が維持されている設定で、ほとんど現在の地球上と変わりがない。
新しい凱旋門や先の折れたエッフェル塔など、まるでパリそのものが月世界に再現されている。
それらが埃だらけで、走る車もキャディラックやメルセデスなど、現在とまったく変わっていない。

 観念の遊びだと言ってしまえばそのとおりだが、月に人工環境を維持できるほどの技術力があるという設定なら、未来都市の風景を見せて欲しかった。
アメリカ的な科学技術批判という視点も感じられなくはないが、何か中途半端な設定である。
マクビー一族の前に出ると、フランス語を話すように言われたり、この映画の意図は何だったんだろう。

 娼婦を装った秘密警察官のレナが、簡単にティコ・ムーンと恋に落ちてしまうのも、分からない展開である。
レナ自身が自分は二重スパイだという場面があるが、それにしては行動が大統領寄りばかりである。
相変わらずディテールに凝っており、フランス映画であることを感じさせるが、全体を貫く主題がはっきりしないので、この映画は何を言いたいのかよく分からない。

 月に設定された未来都市が、「1984年」のような警察国家であるのは良いとしても、独裁権力の世界でありながら、個人商店のような貧弱な統治機構というのも不思議である。
大統領執務室の隣には豚が飼われており、大統領の冬眠と不死の手術のために使われると説明されても、豚の存在自体が具体的でありすぎ、観念がついていかない。

 「ロスト・チュウドレン」といい、この映画といい、どうもフランス人たちはゴルチェのようなゴテゴテの様式美が好きなようだ。
主として、フランス国内向けに作られた映画だろうから、フランス人が分かればいいのだろうが、この映画の制作者たちは自分たちを客観的に見る眼を欠いている。
そのため、主題が伝わってこない。それとも、フランス・イタリア・ドイツ人たちは、これで充分に分かるのだろうか。

 この映画を支える程度の感覚は、すでに世界中で共有しており、ちっとも新しくはない。
また旧態依然の男女関係で、恋愛と物語が絡み合ってないのも、気になるところである。
1997年フランス・イタリア・ドイツ合作映画。


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る