タクミシネマ              マウス・ハント

マウス ハント     ゴア・ヴァービンスキー監督

 父親が死んで、兄弟二人に、古びた製糸工場とおんぼろ屋敷が残された。
製紙工場は古くて、博物館にでもしたいような代物。
丘の上にぽつんと立つ屋敷も、長いあいだ誰も住んでいなかったので、ぼろぼろ。

 兄のアーニーはコックとして成功していたが、市長の食事に誤ってゴキブリを混入させたことから、彼の店は閉鎖されてしまい、彼は失業。
弟のラーズは父親を手伝っていたが、才覚がなく、工場経営などとてもできない。
財産はあっても金のない二人。
ところが、おんぼろ屋敷が有名建築家の建てた物だと判った。
とたんに高値がついていく。

 建物の価値が判らない二人は、高く売るためにだけ、オークションにかけると言い出す。
そのおんぼろ家には、一匹のネズミが住んでいた。
ネズミの一匹くらい放っておけばよいのに、そのネズミを退治しようとしたことから、てんやわんやになる。
ネズミと人間の知恵比べは、ネズミに凱歌が上がり、結局建物は崩れ落ち、オークションはお流れとなる。
ネズミとの知恵比べに負けはしたが、ネズミの命を助けたことから、ネズミが恩返しをし、製紙工場はチーズ工場として再生するという、不思議な顛末である。

 「ホームアローン」等と同様に、常識の裏を行くこうした映画の典型で、愚かな人間の二人組に賢い弱者という設定だが、あまりにも定型的である。
しかも映画が、ネズミとの騒動と、二人兄弟の家庭背景の描写の二つに分かれすぎ、物語の中心を欠いてしまった。
そのため結果的に、この映画の主題がなんだか判らない。

 映画の作りは本格派的で、最初の葬儀のシーンなどは、大河映画のような重厚さである。
ライティングやカメラなどが、コミカルなタッチにあっておらず、重厚な画面となりすぎてしまった。
そのために観客は、画面に同化できない。
ネズミの賢さにしても、人間の愚かさとの対比が上手く伝わらず、なかなか笑えない。
途中でうんざりして、退出しようかと思ったほどであった。

 お金をかけて、じっくりと作られた映画であるにも関わらず、制作意図が伝わらない悲劇的な映画だった。
ネズミが走り回るシーは、SFXを駆使して良くできているのだが、あまりにもネズミを意のままに動かしすぎて、むしろ感興がそがれてしまった。
ネズミという小さな動物が、人間の予測を裏切って駆けずり回ってこそ面白いのだ。
上手くできているがゆえに、展開の先が読めてしまう。
それが、かえってつまらなくしている。

 SFXを使えば何でもできてしまうので、ますます想像力の勝負となってきた。
ネズミの歩くシーンを、忠実に再現しても感興を呼ばない。
意外な展開、はっとするシーン、ほろりとさせる場面、こうしたものはいずれにしても、脚本の出来如何にかかっている。
多くの映画は、SFXに寄りかかりすぎて失敗している。
脚本の完成度が重要だという、見本のような映画だった。
ゴア・ヴァービンスキー監督だが、「ベイブ」の動物スタッフが関わっている。
1997年アメリカ映画。


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