タクミシネマ            L. A.コンフィデンシャル

☆  L.A. コンフィデンシャル   カーティス・ハンソン監督 

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L.A.コンフィデンシャル[DVD]

 大変な前評判の映画だったとおり、良くできた娯楽映画である。
1950年代のアメリカはロスアンジェルス。
戦後の好景気に沸くこの都市は、同時にギャングの台頭する素地もあった。
既存組織のギャングの親分が殺されたので、その後釜をめぐって抗争が始まった。
当初はギャングたちの抗争と思われていたが、実は古い体質の警察が表の治安維持=裏の世界の治安維持という構造を作るために、警察署長自らが殺人の立て役者だったという話である。

 わが国も似ているらしいが、警察というのはやくざたちとまったく同じ体質で、自分たちの仲間意識が非常に強い。
小さな悪を見逃す替わりに、大きな悪を摘発し、社会の治安を維持すると称して、賄賂を取って捜査に手心を加えている。
いわゆる役得といったものだろうが、当時のロスアンジェルス警察内部はそれが当然だった。
しかも、現在のような組織だった捜査ではなく、個人の勘と個人的な情報収集に頼った前近代的な捜査だった。
裏表が一体化しているのだから、正義感が麻痺するのも当然である。

 古くからいる刑事たちは、署長の意をたいして、熱心な捜査に日々を過ごしていた。
しかし同時に、賄賂をとることやたれ込みを悪いことと思わなくなっていた。
むしろ有能な刑事は、細かいことには頓着せず、清濁あわせ飲むくらいの器量こそ、有能さの象徴と見なされていた。
賄賂があるから、有能な刑事は小金には困らないし、後輩の面倒見も良くなる。
心が裕福になるから落ち着いた捜査が出来る。
清濁あわせ飲まない堅物は、口だけで無能とされるのがオチである。

 正義感に燃えた若いエリート刑事エド(ガイ・ビアーズ)が、刑事課に配属される。
彼はたかりを止めて、本当に正義を確立しようと、心に誓っている。
そんなとき、四人の男性と二人の女性が殺される事件が起きる。
そのうちの一人は、退職したばかりの刑事である。
黒人の三人組が、直ちに逮捕されて、一件落着かに見えるが、それは犯人のでっち上げだった。
真相は、警察署長自らが裏の世界の人間の頭目となり、私腹を肥やしていたことの内部分裂だった。

 まさか署長のスミス警部がギャングの親分だと知らない。
刑事たちは署長の命令通りに動くから、真犯人が捕まるわけがない。
しかし、自分の母親が殺されたり、犯罪者が許されることに憤りを感じて、刑事になったという動機をもつ少数の男たち、バド(ラッセル・クロウ)とエドそれにジャック(ケビン・スペイシー)、が、真相を究明しようとする。
もちろん、他の連中も捜査は、真面目にやっている。
警察という体制の中で、単なる言葉の上の正義感は通用せず、毎日の仕事が彼らの意識を決定していた。

 この映画は、正義感に燃えた若い刑事たちを絶賛していない。
正義とは相対的なもので、人間は間違うし、それでも正義はあると密にしかし決然と言う。
その証には、でっち上げられた黒人犯人を射殺するのは、他ならぬエドなのである。
しかも、刑事たちも犯罪組織の売春婦リンと肉体関係を持ってしまうし、最後には署長を後ろから射殺してしまう。
しかも、犯罪組織の撲滅は、死んだ署長の手柄にして、警察組織が社会的な批判にさらされることから逃げている。

 複雑な展開を持った映画で、なかなかに楽しめた。
すでに40台半ばとかなり歳のいったキム・ベイジンガーが、高級娼婦リンを演じている。
これが、すこぶる付きのはまり役である。
彼女は今風の自分で考えて自分で行動する、男と同じに生きるつっぱった女優たちとは違って、古いタイプの美人女優である。
それがむしろゆったりとした雰囲気を作っており、1950年代の雰囲気と良く合っていた。
頭脳はそれほど優秀ではないだろう彼女のようなタイプの女優は、アメリカ映画界では少数派になっていくに違いない。

 ジョディ・フォスターに代表される今日的女優より、10才くらいしか年上にも関わらず、彼女はマネージャーにお膳立てされた上を歩いているのだろう。
今日的女優が積極的に生きる姿勢を持ち、それはそれで評価されていいが、主体性を持たないで受動的な生き方をしてきた女性たちの良さも判りたい。
少数派になっていくのは仕方ないが、積極的な女性たちだけになると、自己主張と我の張り合いといった殺伐とした景色になることは、目に見えている。

 積極的な女優たちが、歳いった男性がもつゆったりした好々爺の風情を体現できるだろうか。
女性たちが、懐の深い人間像を獲得するためには、突っ張りの道を通らなければならないと判りつつも、女性たちには今後の長い苦難の試練が待っている。
キム・ベイジンガーには、いいものを見せてもらった感じがする。
今後はこうした演技以外の雰囲気を味わえる女優は少なくなるだろう。
彼女はこの映画で、オスカーを受賞している。
小物に至るまで、時代考証が素晴らしい。
1997年アメリカ映画。


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