タクミシネマ              キス・オア・キル

キス オア キル     ビル・ベネット監督 

  ニッキ(フランシス・オコナー)とアル(マット・デイ)は、バーで男を引っかけてはホテルに連れ込み、睡眠薬を飲ませて有り金を巻きあげるというチンピラたちだった。
今夜もニッキがカモを引っかけて、ホテルに連れ込んだ。

 しかし、睡眠薬が効きすぎて、男が死んでしまう。
二人は金目のものをいただいてドロンするが、この男はジッパー・ドイル(バリー・ラングリッシュ)の少年趣味を隠し撮ったビデオ・テープを持っていた。
翌日、ジッパー・ドイルを強請る予定だったのである。

 ビデオを見たニッキが頭にきて、ジッパー・ドイルに電話したことから、彼等は警察とジッパー・ドイルの両方から追われることになる。
逃げる道々、二人はモーテルで主人の殺人を、また、一晩世話になった家では夫婦の殺人をしたように見える。

 二人が殺人したように見せかけて、実は二人がやったのではない。
ここがこの映画のカギなのだが、どうもこれには成功していない。
睡眠薬による死亡も事故死だし、おかしな二人ではあっても、どちらも殺人をした形跡が不十分である。
なによりも殺人への動機付けがないので、彼等がやったとは思えない。

 観客は、初めから他の誰かがやったことだと思ってしまう。
しかも、モーテルを出るときには、妙な中年男性が画面にアップになり、この男が何かしたのではと思わせてしまう。
この中年男性が奥さんと死んでいるのが発見されると、ちょっと二人の犯罪かなと迷わせるが、それでもよくできたサスペンスと言うにはちょっと無理がある。

 ニッキに夢遊病の気があったり、アルが切れやすい性格だったりと、伏線は張られているのだが、それも説得力が弱い。
アルが15才、ニッキが13才の時に知り合い、以来二人は不良であったにしても、ニッキの夢遊病は今に始まったことではないだろうに、アルが驚いてしまうのは不自然だ。

 ジッパー・ドイルがビデオテープを取り返すべく追いかけるのもいいが、刑事たちが組織と時間をかけて二人を追っているのに、彼は簡単に二人を発見してしまう。
そして、一度は警察につかまった二人の容疑がはれ、警察から出てくると、警察はジッパー・ドイルを追いかける。
ジッパー・ドイルは殺人をおかしたのでもないのに、同じ警官が捜査を続けるのはうなずけない。

 サスペンスとしてはイマイチだが、映画としては必ずしも金返せではない。
冒頭のニッキの母親が、火だるまで殺される衝撃的なシーン。
ニッキとアルの不良になり方。
二人の生活描写。
愛し合いながら何となく信用できない感覚。
事件を乗り越えての二人の信頼感を伴った愛情の形成。

 こうした精神性はよく描かれているし、映画のストーリー展開にも新鮮さがある。
舞台はパース。
オーストラリアの西側では大きな街だが、ちょっと車で走ればオーストラリアの広い荒野がひろがる。
かさついた風土の描写が、人間の精神性を良く表している。
刑事たちが朝食を撮る場面で、片方の刑事が自分はユダヤ人だと、冗談をいうシーンは面白かった。 

 最近のオーストラリア映画は、傑作が目白押しだったが、今年は「女と女と井戸の中」くらいで、何だか寂しい感じがしていた。
オーストラリアのアカデミー賞を、主要5部門で受賞した映画だが、期待したほどの出来ではなかった。
1997年の映画だから、すでに二年ほど前に完成していたことになる。
この映画に限らず、わが国の公開が遅いのはどう言うわけだろう。

1997年のオーストラリア映画


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