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 秘密と嘘     マイク・リー監督

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秘密と嘘 [DVD]
 生まれてすぐ養子にだした子供ホーテンスが、育ての親が死んだのを契機にして、生みの親を捜す話しである。
映画は子供のほうから始まるが、やがて母親シンシアが話しの中心になっていく。


 最後には、母親の家族の一員として、ホーテンスは叔父や妹からも受け入れられる。
生みの親捜しを下地にして、家族のあいだの秘密や嘘が、いかに人間を歪めているかを主題としている。

 生みの親を捜す話しは、いかにもアメリカ的な話題であるが、
対話する両者の顔を、しつこいくらいに繰り返し見せると思えば、また長いカットがあったりして、映画の作りはアメリカ的ではない。

 「マクマレン兄弟」のような手作り的な雰囲気があって、イギリスの映画だと知って納得した。
しかし、イギリスでも生みの親を捜すことが映画になるほど、家族が複雑化しているのには驚いた。
これが今のイギリスの元気の素なのだろう。

 若い頃はさぞ美しかっただろうシンシアは、15才の時黒人男性と性交し、黒人の子供ホーテンスを生むが顔も見ずに養子にだす。
彼女はつぎに、アメリカ人の白人男性と性交をし妊娠するが、アメリカ人は消えてしまう。
彼女は未婚のまま娘を出産し、女手ひとつで娘ロクサンヌを育ててくる。
当時は、シンシアの両親も生きていたらしく、彼女はその面倒までみてきた。
それに加えて弟もいた。

 映画の舞台は、すでに両親も死んで、シンシアと娘のロクサンヌだけの家庭から始まる。
彼女たちは貧しい家に住んでいる。
ロクサンヌは大学も中退し、シンシアに何かと楯をついて、親子のあいだは最悪状態。
そこへ、ホーテンスから電話がかかってくる。

 シンシアは驚き、最初は会うことを拒否するが、一度は会ってみる。
ホーテンスは賢い女性で、大学を卒業して検眼師をしている。
戸惑っていたシンシアは、やがてこの優秀な女性が自分の子供であることが誇らしくなってくる。

 写真屋を経営する弟が、ロクサンヌの21才の誕生日パーティを開いてくれる。
そこへシンシアはホーテンスを友達として連れていく。
愚かでしかも可愛いシンシアは、賢いホーテンスが自分の子であることを隠せない。
みんなに事実を話してしまう。

 この展開は、考えさせられる。
まず、シンシアは今でも貧しいこと。
ホーテンスは立派に成長し、生活を確立していること。
同居している娘ロクサンヌは、失業対策事業で口を糊していること。
弟は写真屋として成功し裕福だが、奥さんが不妊症で子供がいないこと。
こうした条件が一つでも欠ければ、ホーテンスを暖かく迎えるハッピーエンドにはならなかっただろう。

 シンシアが今や裕福になっていたら、ロクサンヌに姉がいることを伝え、自分のほうから子供捜しをするだろう。
しかし、貧しいシンシアは、今の娘との生活精一杯である。
ホーテンスがシンシアの希望の星になってくれた。
だから、近親者に披瀝できた。

 マイク・リー監督は、家族のあいだには秘密と嘘はいけないという。
それはその通りだが、人間の心理とはそう一筋縄ではいかず、現実はこんなに簡単にハッピーエンドとはならないだろう。
なかなかの人間観察ではあるが、後半をもう少し丁寧に展開して欲しかった。

 二人が対話するシーンが多く、イギリス英語独特のハイピッチなリズムが、気になるがそれはいい。
一人として愉しげな人物が登場せず、暗く陰鬱な人間ばかりが画面にあらわれるので、見ているほうもいささか疲れてくる。
だからといってだめな映画ではなく、超一級ではないが、むしろいい映画である。

 シンシアは生気がない毎日を送っているが、ホーテンスの登場によって生き生きとしてくる。
彼女は若い頃には、さぞもてただろうとすら感じさせてくれて、愚かで可愛いシンシアを演じた女性は、その過程を実に上手く演じていた。名演である。
1996年イギリス映画。


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