タクミシネマ                  マイケル コリンズ

マイケル コリンズ    ニール・ジョーダン監督

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 20世紀の初め、アイルランドの独立運動のなかで活躍した男マイケル・コリンズ(リーアム・ニーソン)の伝記映画である。
政治を個人に還元した映画の常として、マイクは素晴らしい人物として描かれている。
映画としては時代が下ってはいるが、北アイルランドでの同じ主題を扱った「ナッシング・パーソナル」のほうが上である。


 プロテスタントのイングランドとカソリックのアイルランドは、数百年前から抗争していた。
両者の関係は、イングランドの圧倒的な力の前に、アイルランドは抵抗することができず、それなりに安定していた。

 アイルランドは独立をめざして戦争にでたが、正規の戦争では、イングランド側が圧倒的に強い。
アイルランドはまったく歯がたたなかった。
そこで、イングランド警察の要人をテロによって殺す作戦に切り替えた。
その指揮をとったのがマイケル・コリンズだった、と映画は描く。

 現在なら都市ゲリラとか、テロといった作戦は普通にあるが、この作戦は当時は単なる殺人と見なされ、破廉恥罪とされていた。
時代をさかのぼるほど、弱者には厳しい世の中になっていく。

 この映画は、1900年当時の風景を再現し、時代考証もしっかりなされている。
だから、「ナッシング・パーソナル」よりはるかにお金がかかっている。
しかし、「ナッシング・パーソナル」が今日的な問題意識から、独立戦争を見るのに対して、この映画は独立戦争を英雄伝説としてとらえている。
そのために、問題が主人公の個人技に置き換えられてしまった。
しかもそこに、マイクの恋愛をからめているので、ますます個人的な話しになっている。
政治を個人の英雄伝と見るのは皮相である。

 政治というのは、決して個人の問題ではなく、社会全体の話しであるはずで、1人のヒーローがすべてを統率しているわけではない。
英雄伝説映画は、主人公を美化せざるを得ないので、すべての問題を主人公個人の性格に還元しやすい。
主人公が有能だと力説すればすれほど、個人賛美に陥り、政治の力学を見せなくしてしまう。
そのうえ、他の人たちは無能になってしまい、それでは独立戦争など戦えるはずがない。

 テロ作戦が功をそうしたように映画は描く。
イングランドがアイルランドを国として認め、停戦に応じて条約を結ぶ。
マイクが全権になって結んだ条約では不満だとして、反対派が分裂し内戦になる。
無二の親友だった男は反対派になるが、その理由が一人の女性(ジュリア・ロバーツ)を巡る三角関係だったと映画はいう。
もちろん個人的な愛憎が、政治領域に反映することもあるだろうが、この映画のように展開しては承伏しかねる。

 イングランド側の描写が不足しているなどといった、問題点は他にも幾つかあるが、英雄伝説にしたててしまったところに、すべての問題がある。
お金をかけた割には、大味な映画になってしまった。
1996年アメリカ映画。


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