タクミシネマ                  カンザス・シティ

 カンザス・シティ    ロバート・アルトマン監督

 大恐慌の直後、アメリカ中が不景気にあえぐなか、カンサス シティだけは繁栄していた。
黒人になりすました白人ジョニーが、ヘイヘイクラブという賭場へ向かう常連客から、金を強奪する。たちまちそれがばれて、彼はギャングの親分に捕まる。
その彼を助けようと、ジェニファー・ジェイソン・リー演じる奥さんのブロンディが、大統領顧問夫人キャロリンを誘拐する。
そして、ジョニーを解放させるために、大統領顧問から圧力を掛けさせる。
映画は二つの場面を、交互にみせながら進む。

 ヘイヘイクラブという博打場が舞台になっているため、ジャズがふんだんにでてくる。
レスター・ヤングとコールマン・ホーキンスによる、ビッグバンドを背景にしたテナーサックスの掛合が、豪華に演じられる。
そして映画の進行が、ジャズの進行を借りて、ジャズの音によって表現される。

カンザス・シティ [DVD]
 
劇場パンフレットから

 この映画は、あら筋を言ってもほとんど意味はない。
いささかエキセントリックなブロンディが、キャロリンを誘拐してからの二日間を、淡々と見せるだけである。
その中に、当時のアメリカの断面がかいまみれるが、それとてもこの映画でなければ判らないものではない。

たとえば、人種差別、ジャズ、当時の車、服装、映画など、すでに麻薬を使う風景も見える。
時代考証など、細部にまで神経の行き届いた映画だが、アルトマン監督の世界に馴染めない人は、何がなんだか判らない映画だろう。
しかも観客には、主人公のブロンディには感情移入をさせないから。

 大統領顧問夫人キャロリンは、すでに阿片中毒になっているが、歴とした支配階層の女性である。
それに対して、庶民のブロンディはジョニーが大好きで、愛情など冷めきってしまったキャロリンとは好対象である。
誘拐して二人でいる二日間、ブロンディは、いかに彼を愛しているかキャロリンに言うが、それが如何にも皮肉な対象である。
冷たいエスタブリッシュと熱血庶民ということか、でもこれはやや平凡である。

 二日間で、二人のあいだには奇妙な感情が生まれ、キャロリンはブロンディの一面を理解する。
しかし、死んだジョニーにすがりつくと、キャロリンはブロンディを射殺してしまう。
死体にとりすがって、一人にしないでと泣くブロンディの希望をかなえるための射殺だろうと思うが、ちょっとわかりにくかった。
ジェニファー・ジェイソン・リーはうまいが、葉すっぱな感じをだすための話し方がやや耳障りだった。
キャロリンを演じたミランダ・リチャードソンは、後半になるに従って存在感が増し、強く印象に残る。
アルトマン監督は、正確な構図、上手なライティングなどによって、実に絵画的な画面を作り出す。

 ヨーロッパ的な知性を持ったアルトマン監督は、高年齢者の特有の永い射程でものを見る人である。
時代や社会を、大上段に取り上げることはせず、社会的な悪をさりげなく日常の中で扱う。
この映画も、誘拐という話題を扱っていながら、大げさな展開があるわけではない。
誘拐という二日間の異常事も、平凡な日常に還元してみせる。
それでいながら、東洋的な諦念というのでもない。

 たくさんの人間を登場させながら、それらの人たちを上手く絡ませてはいる。
ハリー・ベラフォンテ演じるギャングの親分が、最後に金勘定をしている場面は、名残が残り良いエンディングだった。

1996年のアメリカ映画


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

 「タクミ シネマ」のトップに戻る