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カット スロート アイランド
 レニー・ハーリン監督

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カットスロート・アイランド [DVD]
 この映画は、「テルマ アンド ルイーズ」や「バッド ガールズ」「クイック アンド デッド」などの、強い女性が主人公である映画の流れの上にある。
現代物から歴史物へと、女性の存在証明を広げていく、一連の試みの一つであろう。

 主人公は、「テルマ アンド ルイーズ」でもヒロインを演じたジーナ・デイヴィスである。
しかし、荒くれ男の海賊たちのあいだに、以前の頭目の娘という血縁による支配の正当性を設定しても、女の頭目はやっぱり無理がある。

 「テルマ アンド ルイーズ」のような現代劇だと、女性が強くてもまったく不自然を感じない。
また、呪術の担当者として女性が登場し、呪術の力によって女性が支配権を獲得する設定は充分に考えられる。
ともに腕力が優位の観念ではないからである。
しかし、西部劇や海賊物という武力や腕力が、直接にものをいう世界になると、女性の非力さが話を不自然にする。

 海賊という巨大な男性の中にまじると、女性の非力さや体の細さがいっそう目だつので、活劇シーンが嘘っぽく見える。
非力な女性が、重い刀を振り回すことや、ロープを使っての空中移動など、男性以上にできるとは考えられない。
西部劇の場合は、拳銃さばきという技術が介在するから非力さは平均されて、女性でも男性と互角にやれるかと思えなくもない。
しかし、腕力がむき出しで使われる海賊映画は、非力な女性には無理である。

 女性の腕力物は、矛盾を抱えている。
主人公が、既成観念的にも魅力的であると描くことと、腕力に秀でているという設定は両立しない。
女性的な服装を着せても魅力的に見える。
つまりそれは、細い腕、大きな胸、絞り上げたウエスト、セクシーなお尻の強調となるのだが、こうした体型で力がでるわけがない。
力自慢の女性なら、太い腕、厚い胸板、巨大なウエスト、大きなお尻、そして太い脚となるはずである。

 力自慢の女性は、既成観念としての美しい女性からは、逸脱せざるを得ない。
この矛盾を認めると、映画としての全体的な水準が落ちる。
腕力映画で、もし女性を主人公にしたかったら、太い腕、厚い胸板、巨大なウエスト、大きなお尻で、しかも男性以上の荒くれでも、不思議と魅力的だという設定以外にはない。

 この映画のストーリイにも、おおいに問題がある。
祖父の残した財宝を見つける設定はいい。
しかも、それが三枚の地図にわけられており、三枚集まって宝のありかが判るというのもいい。
しかし、簡単に地図が入手できたり、地図が誰にも読まれる状態にあったり、誰も地図の写しをとらなかったり、話がご都合主義的な展開である。
主人公ジーナ・デイヴィスの女性性を強調するために、ヒーローはマッチョ タイプが使えない。色白男のマシュー・モディンを、配置しなければならないことになる。

 男性にあっては、強力な腕力と優秀な頭脳は両立する。
両者を兼ね備えた男性は存在する。
しかし、男性以上に腕力があり、しかも頭脳が優秀な女性は想像できない。
その上、海賊たちは頭脳が優秀なだけの色白男を、女性頭目の恋人として容認するはずがない。

 ジーナ・デイヴィスが、腕力頭脳ともに優秀だとしたら、ペットとして色白男を飼うことはできても、腕力優位の男性集団の秩序をどう維持して行くのであろうか。
価値の秩序は、支配者と被支配者での使い分けを許さないから、支配者だけのわがままは必ず崩壊する。

 この映画は、帆船を爆破したり、古い時代設定のための建て込みと、とてもお金がかかっている。
そうでありながら、暴風雨の中でのボートのシーンいい、漂流するシーンといい、嘘っぽすぎる。
裏切られた主人公たちが、島を発見する筋といい、無理に無理を重ねている。
その最大の原因は、腕力頭脳ともに秀でた女性海賊という設定にある。

 アメリカの女性は大変だとため息がでる。
美人でスタイル抜群の女性が、いかに格闘技に秀でていても、男性の猛者には歯がたたない。
社会的な男女平等を指向するアメリカの女性は、肉体的な強さにおいても、男性と同等になろうとせざるを得ない。

 アメリカ女性は、肉体的な非力さを克服せねばならないという、困難な旅路に出発してしまった。
しかし、女性の台頭は、この道をすすまざるを得ず、今後女性は厳しい選択を度々せまられるであろう。
我が国でも遠からず女性の肉体的な強さが指向されるだろう。

1995年のアメリカ映画


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