タクミシネマ        デス・プルフ・イン・グラインドハウス

デス・プルフ・イン・グラインドハウス
クエンティン・タランティーノ監督

 わざと古くしたような画面、ときどき混じる無意味な雑音。
前編と後半で、2つに分かれた話。
アメリカンな車とB級映画仕立て。
決して感心したできではないが、おバカな映画好きの心をくすぐるのだろう。

劇場パンフレットの表紙

 若い女の子たちが、休暇ではしゃいでいる。
全員がいかにものアメリカ女性で、ぴちぴちのTシャツに、短いパンツ。
そこから健康そうな肢体が、はち切れんばかりに伸びている。
男なら思わずゴクリ、となるだろう。
監督は、それを承知で、ますます若い女性の肉体を強調して描く。
いまどき、こんな描き方は少ない。

 この映画の主題を、云々するのは野暮だろう。
若い娘に、マッチョな男、これだけである。
スタントマン・マイク(カート・ラッセル)と名乗るマッチョな男は、「バニッシング・ポイント」など有名映画のスタントをやっている。
彼は性的に屈折しており、若い女性を虐めることに、歓びを見いだしている。

 この中年男、何かにつけてカッコをつける、臭い奴である。
彼の乗るダッチ・チャジャーは、鳥かごに改造されており、激しくぶつかっても運転手は無事という代物だった。
その車に誘った女性パム(ローズ・マッゴーワン)を乗せ、若い女性たちの乗った車と正面衝突させる。
もちろん同乗者と相手の女性たちは死亡。
彼は軽症で助かる。これが前編。


 後編はこれとは無関係にはじまる。
休暇中の女性4人が、羽目を外して遊ぶ。
ゾーイ(ゾーイ・ベル)がダッチ・チャレンジャーのボンネットに横になり、キム(トレイシー・トムズ)が高速で飛ばす。
それがスリルだというわけだ。
それを見たマイクが、車をぶつけてゾーイたちを虐める。

 2台のダッチが高速で走りながら、車体をぶつける。
遊びのつもりだったゾーイは、本当に振り落ちそうになり恐怖に駆られる。
前回は女性たちが殺されて終わったが、今度の女性は負けていない。
キムはスタント・ウーマンだったのだ。
マイク以上の運転技術である。
とうとうマイクをつかまえて、女性たちが彼をぶちのめすシーンで映画は終わる。

 若くセクシーな女性に、マッチョな男性という構図は、古い映画の定番である。
こんな臭い設定は、今の映画ではありえない。
かつては生の肉体が、スクリーンに剥き出しで提出され、それがセクシーさを競った。
しかし、セクシーさは肉体ではなく、頭脳が感じるものだと知れたので、今では肉体ももっとソフィスティケートされて提示される。

 この監督は、60年代以前の趣味なのだ。
だから、古き良き時代のマッチョ男や、若いセクシー女優をスクリーンに展示する。
情報社会に乗りきれない我が国や、古い肉体優位の社会に憧れる人には、この監督は人気がある。
それは、まったく当然であろう。
肉体派ディスインテリ指向と言ったら良いだろうか。
しかし、勘違いしてはいけないのは、彼の立つ位置は間違いなく情報社会にあることだ。

 劇場パンフレットには、タランティーノが「多少リッチになって自宅に映画観をつくった」と言っている。
こうした映画で稼げるのは、マッチョ指向の金持ちオタクが彼のファンでいるからだ。
以前なら、彼の映画はほんとうのb級映画にしか過ぎず、三流監督として貧乏生活を余儀なくされたのだ。

 しかし、さすがに古いままの映画では、現代の企画をとおらない。
この映画では、最後には女性がマッチョな男に勝つ。
これが新しいと言えば新しい。
取って付けたようなここだけは、「テルマ・アンド・ルーズ」の続編、と言ったらいいだろうか。


 かつてはチューンしたダッチは、男同士で競い合う玩具だった。
「理由なき反抗」を見ればわかるように、若い女性たちは、男同士のチキンゲームを彩る添え物だった。
しかし、今では真っ当な男は、こんなダッチには興味を示さない。
マイクの相手は、添え物だった女性になっている。
若い男対若い男だったものが、中年男対若い女でしか成立しなくなっている。

 お気楽な設定、若い美女たち、音楽と若い女性のセクシーダンス、古いけれど力強いアメ車、カーチェイス、と娯楽てんこ盛りの映画である。
古い映画からの引用もたくさんあり、マニアックな楽しみもある。
でもそれだけ。
登場する女性たちは皆カッコイイが、古い中年男目線の映画である。

 ロバート・ロドエリゲスが監督した「プラネット・テラー・イン・クラインドハウス」と姉妹編で、アメリカでは同時上映だったらしい。    2007年のアメリカ映画
   (2007.9.5)

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