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冒頭で、女性コーラスのリード役エフィー(ジェニファー・ハドソン)が、 圧倒的な声量と歌唱力で歌い上げる。 これにはブッ飛ぶ。 女性3人であっても、リード役とバック役に分かれるらしい。 たしかに、エフィーの歌唱力はダントツで、圧倒的である。 しかし、やや重くて古い感じがする。 「シカゴ」の脚本家が、監督をつとめているが、映画としては「シカゴ」には及ばない。
中古自動車屋のカーティス(ジェイミー・フォックス)が、 彼女たちドリームメッツに、目を付けて売り出そうとする。 そのときに、歌唱力のあるエフィーをトップから外して、美人のディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)をトップに据える。 もちろんエフィーは不満だが、売り出すためだと説得される。 最初のうちこそ、何とかやっていたが、徐々に路線の違いが目立ってくる。 ダイアナ・ロスとシュプリームスをモデルにした、ブロードウェイの大ヒット・ミュージカルの映画化だというが、 作りとしては映画的ではない。 歌こそ聴かせるが、画面に動きがなく、役者が正面を向いて歌っているシーンが目立つ。 しかも、歌手の背景を黒にしたり、絵画性がない。 もっと映画的な処理が出来るはずである。 また、同時性も考える必要はないのだから、もっとダイナミックにやって欲しかった。 ミュージカルには歌中心と、ダンス中心があるが、 歌中心の場合には映画化の方法を、よく考えるべきだ。 ダンスではなく歌が中心になったとき、映画的な動きのある構成を考えるべきだったのだ。 そして、物語を練り込むべきだった。 映画にするときに、主人公を1人に絞るべきだった。 エフィーに正義があり、観客は彼女に心情移入したくなるのだが、 彼女は時代に捨てられる歌い方の持ち主でしかない。 映画の中では悪人のように描かれているが、マネージャーのカーティスの眼が正しかった。 事実、ディーナがリード役になって、このグループは世界的な名声を確立していく。 エフィーのままだったら、これほどヒットしなかっただろう。 しかし、時代は残酷である。 ラップが登場するに及び、カーティスの路線も、やがて時代遅れになっていく。 ディーナはカーティスと結婚しているにもかかわらず、離婚してグループは解散していく。 この映画は、ほぼ全員が黒人である。 この映画が描くのは、黒人女性グループをとおして、黒人たちの台頭と女性の自立だろう。 映画の初めは1960年代である。 この頃は、黒人の地位は低く、人種差別がまかり通っていた。 黒人蔑視のジョークも登場する。 黒人と白人は同じ店に入れなかった。 それから50年、アメリカは人種差別を克服しつつある。 今では副大統領も黒人だし、大統領候補にも黒人が登場している。 公民権運動は確実に実を結んでいる。 差別を切開し、白日のもとで克服する姿勢は、我が国では馴染みがうすい。 アメリカでは社会的な問題を、徹底的に議論し、試行錯誤しながら改善していく。 それに対して我が国では、差別にふれずに差別をを忘れることによって、克服しようとする。 これでは克服したことにならない。 道半ばといえども、人種差別の克服は、アメリカが誇っても良いことだ。 ヨーロッパの人種差別は、差別があることすら話題にならない。 フランスにだってイギリスにだって、黒人はたくさんいるが、 両国の有名政治家に黒人が1人でもいるだろうか。 問題に光を当てることは、論争的になり、ある人々には苦痛を与える。 しかし、問題を白日のもとにさらさないことには、差別があることすら認識されない。 この映画は、アメリカが人種差別を克服した証明でもある。 人種差別は公民権運動として始まったが、 その頃から同時に女性運動も雌叫びを上げつつあった。 この映画でも、最後にはディーナがカーティスのもとを去っていく。 その時の台詞が、あなたは私を判っていない、というものだった。 自分探しの旅こそ、女性たちのたどった軌跡であり、その結果、アメリカでは離婚が増大した。 もちろん女性の自立は、職業人たることで達成されたのであり、 専業主婦の多い我が国とは雲泥の違いである。 ところで、裕福になったディーナとカーティスが、住んでいる家が見物だった。 彼等が住んでいる家は、全面ガラス張りで、いかにもの近代建築である。 貧乏だった人間が金持ちになったとき、ガラス張りの家に住むだろうか。 我が国の金持ちたちは、おそらくガラス張りの家には住まないだろう。 敷地の広さの違いだけではない。 ガラス張りの家に住むのは、自分を晒すことなのだ。 自己を晒すのは、強い自我が要求される。 一面傲岸さも必要である。 我が国でも、ガラスのビル建築が多くなっている現在、人間性にどのような影響があるのか、ちょっと気になるところである。 2006年アメリカ映画 (2007.2.28) |
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