タクミシネマ        デザート・フラワー

デザート・フラワー    シェリー・ホーマン監督

 女子割礼の撲滅を訴える映画である。
ワリス・ディリー(リヤ・ケベデ)は、いまでは「VOGUE」などの表紙を飾るスーパーモデルだが、3歳の時に割礼されていた。
男子の割礼はユダヤ人を初め、多くの人種が実施しており、その犯罪性を問われることはない。
しかし、女子割礼は違う。

 アフリカの多くの国で、いまでも女子割礼が実施されている。
そのため、多くの女性が傷を負ったり、その傷がもとで死んでいる。
8人兄弟だったワリスも、2人の妹を割礼によって失っている。
フラン・P・ホスケンは「女子割礼」で次のように言っている。

 アフリカや中東では、女性の性力についての神話がはびこっている。その中で、一般に、女性は性欲をコントロールできないとか、セックスに取り付かれていると信じられている。処女を守り、家族の名誉と生活を守るため、女性器を切除したり、陰部封鎖しなければならないといわれる。P23

IMDBから
 ワリスはソマリアの遊牧民の子供として、砂漠に生まれた。
砂漠に生きる遊牧民の生活は厳しい。
昔からの因習が残っている。
1夫多妻である。
13歳のワリスは、老人の4番目の妻になるように、両親によって決められた。
しかし、彼女は老人の妻になる気はない。
結婚式の前日、両親のもとを逃げだす。
そして、1人で砂漠を横切って、首都のモガディシュへと向かう。

 やっと着いたモガディシュでは、何とか叔母さんの家に転がり込む。
ここから彼女に幸運の女神が微笑み始める。
叔母さんは彼女を砂漠に送り返さず、ロンドン大使の女中として渡英させてくれたのだ。
ロンドンの大使館で働いていたが、ソマリア政府が崩壊し大使館は閉鎖された。
その結果、彼女はロンドンの街に放りだされた。

 掃除婦として働くうち、1人の友達ができる。
マリリン(サリー・ホーキンス)は、ふつうの女の子だが、しごく気だてが良かった。
嫌々ながらも、対等の友達として、ワリスの面倒をみてくれたのだ。
そして、ファッション・カメラマンのテリー・ドナルドソン(ティモシー・スポール)との出会いも幸運だった。

 スーパー・モデルとして有名になって以降の、女子割礼撲滅キャンペーンがこの映画の主題だが、スーパー・モデルになっていく過程も見物である。
テリー・ドナルドソンはまったくの素人であるワリスに目を付ける。
彼はワリスの美しさを発見したのだ。
ワリスはまだ何の訓練も受けていない。
にもかかわらず、彼女に美を見いだして、訓練を施して磨き上げていく。

 我が国で想像できるだろうか。
粗野そのものの女性の中に、美しさを発見できるだろうか。
横顔が素晴らしい、アゴの線が絶品だ、という理由だけで、掃除婦の黒人女性をスカウトするだろうか。
我が国なら、すでにできあがっている美に近い者に、声をかけるのではないだろうか。

 言葉も怪しく、ステージで歩くことすらできない女性に、写真家が美を見いだす。
西洋の美意識が、いかに確立されているかを語るだろう。
我が国の美意識は、先進国からの借り物だから、自分の目で美を発見できないのだ。
残念ながら、先進国で確立した美に追従しするしかない。

 ワリスも権利意識はしっかりしていた。
イギリスの市民権をとるために、二―ル(クレイグ・パーキンソン)と偽装結婚する。
しかし、永住許可が出たとたんに、さっさと離婚する。
彼はワリスを救ってくれたにもかかわらず、かんたんに離婚である。
これも日本的メンタリティではないだろう。

 彼女の非日本的メンタリティが、モデルとしての成功の原因だろう。
でなければ、割礼されていることなど、カムアウトするはずがない。
割礼が因習であることを知れば知るだけ、自分は関係ないと振る舞いたくなる。
ワリスのカムアウトに拍手喝采である。

 アフリカ女性の美に気がついてからは、もうスーパーモデルには黒人が跋扈している。
しかし、黒人女性といっても、手足が長く、頭の小さい、白人に近いスタイルの女性達だけだ。
唇の厚い黒人女性は、いまだにお呼びではない。
美は経済力が作るものだ。
原題も「Desert Flower」
2009年ドイツ、オーストリア、フランス映画
(2011.1.13)

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