タクミシネマ         隠された日記 母たち、娘たち

隠された日記 母たち、娘たち
ジュリー・ロペス=クルヴァル監督

 50年くらい昔の話。
専業主婦だった美しいルィーズ(マリ・ジョゼ・クローズ)は、自分で稼ぐことを夢見ていた。
そして、マルティーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と弟をおいて、「人形の家」のノラのように、家出してしまったということになっていた。

 カナダで働くルィーズの孫のオドレイ(マリナ・ハンズ)は、フランスの片田舎・アルカションに帰省する。
彼女は妊娠しているが、母親のマルティーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)とソリが合わず、何も告げない。
休暇で帰ったにもかかわらず、母の家には寄りつかず、かつてルィーズが住んだ今は無住の家に住む。

 2人の子供をおいて家出したルィーズは、父親から悪者と聞かされて、マルティーヌは母親を恨んでいた。
それを破ったのは、無住だった家から発見されたルィーズの日記だった。
それによると、ルィーズは自立を願い、家出願望は持っていたが、子供思いの母親であった。

 妊娠したオドレイの帰省と、母親と父親、叔父とその妻などなど、過去が蒸し返されていく。
日記をみたマルティーヌは、封印したはずだった過去を語り始める。
すると、自立を望んだ妻を、夫つまりマルティーヌの父親が、世間体を憚って殺してしまったのだ。

 当時は、女性が専業主婦として、家庭に納まっているのが常識だった。
既婚女性が職業につくなど、れっきとした男性には許せない所行だった。
殺したうえに家出したことにして、悪人のレッテルを貼り、そのうえ、母親は悪人だと娘を洗脳したのだった。

 いかに男性が、女性の自立を阻んできたか、恨みのこもった男性バッシングの映画である。
しかし、映画としては論理が破綻している。
家出を願う妻を殺してまで、夫は自分のメンツを守った、と女性監督はいう。
殺すところまでは良いが、殺したあと家出したことにしては、世間的なメンツが守れなかったではないか。
子供を捨てて家出したと言うのなら、あえて殺さなくても、同じ結果ではないか。

 家出を許さない夫がいたのは、あり得るだろう。
家出するなら、殺してしまうのも、設定としてあるだろう。
しかし、殺した後、家出したと言っては、夫の面子の立ちようがない。
家出させないために殺したにもかかわらず、家出したといっては、殺した意味がない。

 1979年公開のアメリカ映画「クレーマー、クレーマー」が、女性の自立を扱っていたが、アメリカとフランスでは人間性が違う。
自立を望んだだけで、奥さんを殺してしまうフランス人と、慣れない子育てと家事に追いまくられるアメリカ男性。
21世紀にもなって、いまだに男性を恨んでいるフランス女性。
古い文化のある地域で、生まれ育った女性監督は、執念深くて恐ろしい。

 妊娠中のオドレイが、若くてイケメンのギャルソンと一晩をベッドで過ごす。
すると翌日、子宮から出血があって、母親と一緒に病院へとむかう。
大したことはなく、ここで母子の関係が修復される。
妊娠初期のセックスには、何の論及もなく、女性特有の身体問題で理解し合う。
身体の問題に還元してしまっては、これではまるで動物の話である。

 映画の設定に従えば、母親のマルティーヌは、祖母のルィーズに捨てられた。
そして、父親に自立の道を進められたので、医者になったのではないのか。
また、オドレイも父親の愛情によって、まっとうな社会人になったのではないか。
社会が個人の生き方を決めるのだから、当時の父親が妻の自立に理解がないといっても、父親個人を責めることはできない。

 社会の常識とはなれた意識を持った人間が出てしまうと、その家族や関係者はとんでもない迷惑を被る。
市井の個人の幸せとは、ごく常識的な生き方を守ることだ。
家族の誰かが突出すると、かならず誰かが不幸な目に遭う。
反体制運動に身を投じでもしたら、家族の全員が官憲に監視されることになる。
そんなことぐらい映画監督だもの、判りそうなものだ。
この女性監督は、ゲイじゃないだろうか。

 ルィーズの夫は、オーダーメイドの洋服屋さんだが、当時あんなに裕福な生活が可能だったのだろうか。
海に面した敷地に、大きくモダンな家。
そして最新式の電化製品。
そのうえ、車までもっている。
生活があまりにブルジョワ的で違和感がある。
HIDDEN DIARY    2009年フランス=カナダ映画
(2010.11.9)


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