タクミシネマ            瞳の奥の秘密

 瞳の奥の秘密   フアン・ホセ・カンパネラ監督

 近来、稀にみる純愛映画である。
二つの純愛が絡み合いながら、時間を前後させて、ゆっくりと物語は進んでいく。
純愛の美しさと、恐ろしさを入念に描き込んでいる。
よくできた脚本と緻密な構成で、2時間を充分に楽しめる。
星を献上する。

Still of Ricardo Darín, Soledad Villamil and Javier Godino in The Secret in Their Eyes
IMDBから
 刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は、25年前におきたモラレス事件の顛末に、承伏できない蟠りをもっていた。
すでに25年もたっており、退職した彼には、もうどうすることもできない。
そのため、モラレス事件を小説に書いて、真相を糺そうとする。

 小説を書く決意をもって当時の職場を訪ね、彼の上司だったイレーネ・ヘイスティングス(ソレダ・ビジャミル)と会った。
彼女はコーネル大学の大学院をでて、彼の在籍中に赴任してきた。
平の役人の彼には眩しい存在だったが、2人で担当した事件も多かった。

 モラレス事件も2人で取り組んだ事件である。
1974年のブエノスアイレスで、リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)の妻リリアナが、強姦されて殺された一件だった。
被害者の夫モラレスは、1年たっても毎日犯人を捜していた。
それをみたエスポシトが、再調査した事件である。

 モラレスのアパートで、仕事をしていた2人の職人が犯人とされたが、冤罪だった。
実はイシドロ・ゴメス(ハビエル・ゴンディーノ)というリリアナの幼なじみが犯人だった。
一時はゴメスを逮捕し、自供まで追い込んだ。
そして、有罪に持ち込んだが、たった一年で釈放されてしまった。
その釈放には、内戦とクーデターに明け暮れる当時のアルゼンチンの、政治的な駆け引きが横たわっており、裏取引が行われたのだった。

 エスポシトがゴメスを捕まえてきたが、自供に追い込んだのはイレーネだった。
ゴメスが性的な変質者であること見抜き、彼女はアメリカ仕込みの心理尋問で、犯行を見事に自供させた。
しかし、上部からの政治的な圧力で、ゴメスは釈放されてしまった。
それだけではない。
何者かに、命をねらわれ始めたのだ。

 イレーネは上流階級出身で、バックがあるから大丈夫だが、高卒で庶民のエスポシトはそうはいかなかった。
部下のパブロ・サンドバル(ギレルモ・フランチェラ)が、彼の家にいたときに、彼と間違って殺されてしまう。
身の危険を感じた彼は、イレーネの手配した田舎へと身を隠す。

 執念で犯人を追っていたモラレスは、ゴメスの釈放は許せない。
彼はゴメスの行動を追い、とうとうゴメスを捕まえる。
そして、ゴメスに死以上の刑罰をあたえる。
この顛末は、純愛の恐ろしさを充分に感じさせ、死刑のない国での刑罰のあり方を考えさせる。

 25年のあいだには、いろいろあった。
エスポシトは結婚し、そして離婚した。
イレーネも結婚し、2人の子供がいる。
いまでは検事に出世した。
しかし、モラレスはゴメスを25年間も幽閉したまま、一言も言葉を交わさないのだ。
一種の拷問である。
25年にわたって、ゴメスを幽閉するためだけに、モラレスは田舎の一軒家に、独りで住んでいる。

 モラレスのリリアナへの愛情表現と、エスポシトのイレーネへの愛情表現が、不思議に重なってくる。
25年前、ブエノスアイレスから田舎へと身を隠すとき、彼はイレーネに告白したかった。
イレーネも応えようとしていた。
しかし、コーネル大学出の博士と、下っ端役人では身分が違いすぎる。
彼は言い出せずに分かれたのだった。

 エスポシトは25年後に、小説を書くことによって、イレーネに告白したのだ。
小説を彼女に読ませて、小説をとおして告白した。
それはイレーネにもつうじて、今度は彼女も受けてくれたが、彼女は既婚者である。
2人の前途には困難が待ち受けているが、2人が結ばれるだろうことを暗示して映画は終わる。

 やや鈍いテンポながら、愛情のあり方を2つ並べて、じっくりと追いかけていく。
イレーネが美しい。
  「THE SECRET IN THEIR EYES」
 2009年スペイン=アルゼンチン映画 
(2010.08.26)


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