タクミシネマ           第9地区

 第9地区   ニール・ブロンカンプ監督

 とても面白い映画で、なぜ評判にならなかったのか、不思議である。
ボクは飛行機の中で、途中まで見たので、見たつもりになっていた。
そのため、急いで映画館へは行かなかったのだが、もっと早く行くべきだった。
見損なった後半こそ、ほんとうに面白い部分だった。

Still of Sharlto Copley in District 9
IMDBから

 20数年前、南アフリカ共和国の首都ヨハネスブルグの上空に、正体不明の巨大宇宙船が浮かんだ。
船内には弱り果てた無数のエイリアンが乗っていた。
南アフリカ共和国政府は、ヨハネスブルグにある第9地区の仮設住宅に、エイリアンを収容した。
そのまま、20年の月日がながれ、エイリアンの管理が、民間企業マルチ・ナショナル・ユナイテッド社(MNU)に委託された。

 MNUは、第9地区から郊外の第10地区へ強制移住を決定。
その責任者に、ヴィカス(シャルト・コプリー)を指名する。
移住にサインするようにエイリアンと交渉中に、ヴィカスはウィルスに感染し、左腕がエイリアンへと変身を始めてしまった。


 エイリアンの遺伝子をもつヴィカスは、格好の実験材料である。
彼の臓器を求めて世界中が、熱い視線を送り始めた。
MNUはヴィカスを切り刻もうとする。
辛くも脱走したヴィカスは、クリストファー(ジェイソン・コープ)と名乗るエイリアンとであう。

 クリストファーは天才科学者らしい。
20年かけて、巨大宇宙船へと行くための連絡舟を造っていた。
それは地球の科学とは異次元のもので、とてつもなく高度なものだった。
MNUから追われ、変身を始めたヴィカスと、宇宙船にドッキングさせて母国へ戻ろうとするクリストファーのあいだに、友情が芽生え始める。

 この映画の最大の美点は、独創性である。
映画のなかでも言っているが、宇宙船の飛来する場所は、アメリカではなく南アであること。
大量の難民的なエイリアン、優れた知能があるのだが、傍若無人な行動。
「マーズアタック」ほどには攻撃的ではなく、それでいて人間と親和的でもない。

 MNUは民家軍事会社だろうし、UNといって半ば国連を皮肉っているのかも知れない。
一種の管理社会で、「1984年」とは違うが、やはり人間社会の異常さを見つめている。
エイリアンの強制移住と、人権保護団体の活動などなど、注目すべき主題がたくさんつまっている。


 ウィルスに感染し変身を始めたヴィカスが、MNUから追われるようになる。
そして、エイリアンと心がかよう。
エイリアンの住む第9地区には、無法者のナイジェリア人がいる。
ナイジェリア人は食肉によって、霊を体内に入れるという。
これはアメリカでは撮れない設定だろう。

 映画のつくりとしても、何種類かの映像を組み合わせて、テンポ良くリアルな臨場感をだしている。
また、エイリアンの造形としても、気味悪さが実に鋭い。
それでいながら、変身しきってエイリアンになったヴィカスが、バラの花を作っている最後のシーンは、なんだかジーンとさせる。

 エイリアンものに新たなページを開いたものとして、無条件に星を献上する。
「DISTRICT 9」
 2009年 アメリカ=ニュージーランド映画 
(2010.05.12)


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