タクミシネマ        シャッター・アイランド

シャッター・アイランド    マーチン・スコッセシュ監督

 マーティン・スコセッシとディカプリオという組み合わせなら、それなりに期待していくでしょう!
 しかし、マーティン、それはないよ、
というのが見終わった感想である。
途中で結末が判ったとはいえ、映画としてやってはいけない展開だろう。
 
Still of Leonardo DiCaprio, Ben Kingsley, Max von Sydow and Mark Ruffalo in Shutter Island
IMDBから

 時代設定は1954年というから、戦争が終わってまだ9年しかたっていない。
連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)は、ヨーロッパ戦線に派遣されて、ユダヤ人虐殺の跡を見てしまった。
それがトラウマになっているらしい。
という含みがあって、彼はアッシュクリフ病院へと、女性患者失踪事件の捜査のためにやってくる。

 アッシュクリフ病院のある場所は、ボストンの沖合いにあるシャッターアイランド。
ここは犯罪を犯した精神病者を収容している。
たった66人の収監者に対して、看守や看護士がばかに多い。
しかも、収監者たちは手錠や足枷をはめられており、そのうえ、看守たちはライフルを構えている。
この当時、精神病患者の人権は無視されており、収容所内は異様な雰囲気だった。

 チャック(マーク・ラファロ)がテディの相棒だが、この捜査ではじめてコンビを組む。
2人は嵐が来る前日、小さな船で島にやってくる。
テディは捜査に名を借りて、自分の3人の子供を殺した放火犯のアンドルー・レディスに復讐しようとしていた。
アンドルーがこの刑務所に収容されている、と聞いてきたのだ。

 記憶と幻覚、それに精神病という設定では、もう本当に何でもアリだ。
スクリーンに映していながら、あれは幻想だったと、後でキャンセルできる。
記憶を扱うと、その記憶が本当に事実なのか、その真偽がわからない。
錯覚だったということにしてしまえば、どんなストーリーでも可能である。


 「カッコーの巣の上で」のように、精神病院を舞台した名作もある。
しかし、この映画は、錯覚と幻覚をつかったご都合主義の極みだ。
後から考えてみれば、この映画のどこからどこまでが事実で、どこまでが幻覚なのだか区別が付かない。

 2年前から、一時快方に向かったという説明があったが、あれだけ厳格な刑務所からでたことが、まず不思議である。
他の収監者たちは、皆、作業をさせられている。
なのに、彼だけが島外にでて、もう一度島に戻ってくるのかがおかしい。
この前提自体を疑ったら、映画が成り立たないだろう。
それとも、これがすでに幻覚だった?

 映画の冒頭で、目の錯覚で長さが違ってみる線とか、平行なのに平行に見えない格子などを、さかんに見せる。
そして、結末は誰にも喋るなと、字幕が入る。
よほど大きなどんでん返しがあるだろうと、期待してみていると、途中で結末が見えてしまうのだ。


 この映画は、どこまでが幻覚で、どこからが事実だか、判然としない。
テディは、元軍人で元連邦保安官だとしよう。
それとも、これも彼の憧れだった?
だから、島の外にでることが出来た?
最後に彼自身が収監されている患者で、凶暴なのでロボトミー手術をうけることになる。
これも事実ではない?
それとも、ロボトミー手術を受けるのも、幻覚なのだろうか。

 観客が信じることができる事実を、まったく無視してしまったら、映画自体が成り立たない。
観客はストーリーを理解し、物語を判断する何らかの基準をもたなければ、映画を楽しむことができない。
精神病で幻覚がひどいということであれば、それなりに理解するが、理解の鍵をはずされたら映画ではなくなってしまう。

 収容施設のおどろおどろしさとか、病院長ジョン・コーリー(ベン・キングズレー)が住んでいる建物とか、見るべきシーンはあるが、物語がいかにもお粗末だった。

 「SHUTTER ISLAND」
 2009年アメリカ映画 
(2010.04.16)


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