タクミシネマ    50歳の恋愛白書

50歳の恋愛白書   ベネット・ミラー監督

 中年女性ピッパ・リー(ロビン・ライト・ペン)は、年のはなれた編集者の夫ハーブ(アラン・アーキン)と暮らしていた。
最近、2人はニューヨークから、コネチカットの老人村に引っ越してきた。
そこで彼女は、夜のあいだに自宅の室内が荒らされているのに驚いた。
誰の仕業かと監視カメラを付けると、何と夢遊病でうろつく自分の仕業だったのだ。
そこから彼女の若い時代が回想される。

Still of Blake Lively in The Private Lives of Pippa Lee
IMDBから

 彼女は理想の母親を演じる母親からのがれ、ニューヨークに住む叔母のもとに転がり込む。
叔母は、ゲイの相手であるカット(ジュリアン・ムーア)と同棲しており、そこから高校へ通うことになった。
トンでるカットから、若かった彼女は大きな影響を受け、どんどんドロップしていく。
そんなとき、ハーブと出会い同棲する。

 ハーブにはジジ(モニカ・ベルッチ)という妻がいた。
ハーブが金回りが良かったのも、ジジの持参金がもとだった。
ジジはハーブにピッパとの結婚を認めるから、一緒に昼食に来いという。
昼食のテーブルで、ジジはピストル自殺してしまう。
その後、2人は結婚し、2人の子供をもつが、トラウマが残っている。
そうした背景が、ピッパの行動に影響を与える。

 マンハッタンからコネチカットへの引っ越しが、彼女の潜在意識を撹拌してくる。
彼女は昔の感性を思いだし、隣家のクリス(キアヌ・リーヴス)に安らぎを求める。
そんなとき、夫ハーブの不倫が発覚。
離婚を決意するが、ハーブが脳卒中で倒れ、植物人間になってしまう。
彼女は延命装置を外し、葬式を不倫相手のサンドラ(ウィノナ・ライダー)にまかせて、クリスと旅にでる。


 隣家の養子であるクリスも、どこかおかしい人物だった。
自分探しの旅に疲れ、家をでたり入ったりしていた。
2人は形式的な生活を見なおすために、旅にでるのだが、ピッパはまた帰ってくると言っている。
ハーブといい、ピッパの結婚といい、クリスといい、みなかつての常識を逸脱している。

 常識に囚われない生き方といっても、いまや映画で描かれるのは、非常識なものばかりだ。
以前ならクリスの親のほうが常識的だろう。
しかし、いまでは若いクリスが、未亡人となったばかりの女性と、旅にでるほうが常識的である。
サンドラとの不倫はともかく、ハーブがジジを捨てるのだって、もはや常識なのだ。
それでありながら、サンドラはピッパの親しい友人だったから、ピッパは大いに傷つく。

 60年代の生き残りのようなピッパと、現代のオチこぼれであるクリスが、何となく馬が合うというのは自然なのかも知れない。
ヒッピー文化が華やかだった時代、あれは一時の徒花だったのだろうか。
そういえば、団塊の世代は、こぞってインローになってしまったし、あれほど嫌った管理社会化がすすんでいる。


 ハーブとの生活で、ピッパは完璧な良妻賢母を演じてきた。
良妻賢母を演じることが、彼女の生活を支えてきたのだが、それは彼女の精神を歪めることだった。
出会った当初、年上で知識もお金もあるハーブにたして、ピッパは守ってもらう以外には、対応のしようがなかった。
しかし、自主性や自立性を偽ってきたことが、夢遊病になって表れ、娘のグレース(ゾエ・カザン)からも疎遠にされていたのだ。

 葬儀をサンドラにあずけて、クリスと旅にでることを、息子のベン(ライアン・マクドナルド)には咎められるが、グレースからは支持される。
完璧な妻とは、いまだに良妻賢母である。
良妻賢母以外に妻の理想像はないが、妻に理想像を求めること自体が陳腐化しているのだろう。
もはや妻という立場に、常識はないのだ。
すべてが個人になってしまう、それが現代だろう。 

 レベッカ・ミラーは新人監督に近い。
ブラピがプロデュースしたことも手伝ってか、おもしろい俳優が沢山でていた。
モニカ・ベルッチは相変わらず胸こそ大きかったが、すでに容色が衰えはじめている。
また、万引きで逮捕され続けたウィノナ・ライダーが、ちょっと趣を変えて復活してきた。
やはり上手い役者は拾われるのだろう。

 出産を経たジュリアン・ムーアが、ひどく痩せてしまって驚いた。
原題は「THE PRIVATE LIVES OF PIPPA LEE」であり、邦題とは若干ニュワンスが違う。
ピッパの個人的な人生を見なおす物語であり、けっして恋愛が主題ではない。
個人を問うことに、我が国は馴染めないのだろう。
2009年アメリカ映画 
(2010.02.15)


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