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どこの国でも1960年代までは、古い権威が残り、規制が厳しかった。 髪の毛は七三に分けて、きちんと刈り上げる。 上下そろいのスーツを着て、白いワイシャツにネクタイを締める。 それが社会の常識だった。 しかし、じょじょに変化の胎動が始まっていた。
当時のイギリスはラジオ局がBBCしかなく、しかもレコードの演奏時間が決められていたので、若者たちにはきわめて不評だった。 そこで海賊放送が登場した。 公海である黒海の上に、船を浮かべて、ロックをがんがん鳴らす。 電波は国境など軽々と越えて、イギリス国内へととんでいく。 海賊放送は、船から電波を発していたので、どうしても共同生活になる。 当時は、コミューンの動きがあったことも手伝って、ロック狂いたちがご機嫌な共同生活を送っていた。 映画は高校中退のカール(トム・スターリッジ)が、この船に紛れ込むところからはじまる。 当時の権威は、反抗音楽=ロックを許せない。 海賊放送を抹殺した歴史があるので、物語の結末は想像がつくだろう。 ほんの数年で、消滅させられてしまった。 当時は我が国でも、自由な放送に憧れたものだ。 1960年代初期の人物風景や、流行がわかってとても懐かしい。 この映画を見ていると、ロックが反抗の音楽だったことがよく判る。 そして、放送が自由への砦になるのだ。 1968年にはパリで5月革命がおきるのだが、当時は権威に反逆する空気が世界中にあった。 背広が制服となったとはいえ、家父長制は強固だったし、年齢秩序や男女差別は厳然としていた。 しかし、工業社会が成熟をはじめ、じょじょに個人の輪郭がはっきりしてきた。 個人の自立が大衆レベルで始まっていたのだ。 どんな政府も、みずから権威を取り下げることはない。 権威や体制は変化をきらう。 今のままなら、自分たちは美味しい生活ができる。 現状維持こそ権威の望むところだ。 だから、変化の芽をまず弾圧する。 しかし、若者は我慢できない。 自由が欲しい。 工業社会になり豊かさが見えてきた。 そこで若者は、自由がなければパンもないと言いだした。 クエンティン(ビル・ナイ)の経営する海賊放送は、24時間放送だったので、DJもたくさんいた。 アメリカ人ザ・カウント(伯爵)(フィリップ・シーモア・ホフマン)、デイヴ(ニック・フロスト)、サイモン(クリス・オダウド)、マーク(トム・ウィズダム)、ボブ(ラルフ・ブラウン)、それに、ギャヴィン(リス・エヴァンス)といった男たちが、一つの船に乗っていた。 マリファナが広まりはじめ、フリーセックスも実践され始めていた。 土曜日は、女性たちが本土からやってきて、夜の楽しみが始まった。 その後になれば、先進国ではマリファナはほぼ自由化されたし、女性が解放されて、セックスの自由化も進んだ。 しかも、フェリシティ(キャサリン・パーキンソン)という女性のゲイまで乗せて、この船は時代の最先端を行っていたのだ。 しかし、彼女の仕事は炊事係というのが、当時の女性の地位を物語る。 そのため、ロックの特異性がよく判らない。 しかし、ロックは反抗の音楽なのだ。 自由への叫びが、ロックだった。 それはどんなに強調しても、強調しすぎと言うことはない。 いまアニメ文化を生みだしているが、いままで我が国では、自分たちから近代文化をうんだことはない。 すべて外来のものだ。 1968年の学生運動だって、結局、我が国内で終焉してしまって、近代を越える文化にはなり得なかった。 自由への運動には、たどり着かなかった。 放送局の果たす役割も、訴えるものがある。 我が国のマスコミは、体制側の情報を流している。 かつてのBBCと同じである。 我が国のマスコミが、自由を謳うなど考えられない。 しかし、弾圧の嵐が吹きすさぶなか、中央・東からヨーロッパ全土で、放送局の果たした役割は大きい。 だから、体制側も反体制側も、まず放送局を押さえるのだ。 自由放送局は貧弱な設備のなかで、かろうじて微弱な電波をだしている。 それでも解放を求める人には、大きな励ましになり、心強いものだろう。 この映画は、ロックという反抗の音楽をつうじて、放送局の役割もしめしている。 海賊放送も最後には、海洋犯罪法が成立し違法となってしまう。 そして、船が沈没の憂き目にあうが、救助のために大勢のリスナーが、小舟で駆けつけてくる。 このシーンは、おもわず目頭が熱くなる。 大衆とは確かに衆愚である。 しかし、愚かな大衆が文化を生む。 現状維持が体制の利益だから、賢い体制は何も生まずに、現状維持を図るだけだ。 愚かな大衆は、ロックを生んだ。 賢く冷徹な体制より、ロックを愛する愚か者のほうが、ボクははるかに好きだ。 振り返ってみるとき、我が国のラジオ局は、何をやっているのだろうか、と思う。 どこをまわしても、同じようなお喋りばかり。 詰まらないお喋りの間に、やっと音楽を挟んでいるだけ。 それだって、海外の流行を早く知ったに過ぎず、DJ独自のポリシーというわけではない。 今やイギリスだって、我が国よりはるかに多くの局がある。 我が国では、音楽専門の局ができないのだろうか。 詰まらないお喋りはもういいから、音楽だけを流して欲しい。 ボクは海外のインターネットラジオを、聴いていることが多くなった。 原題は「The Boat That Rocked」 2009年イギリス・ドイツ映画 |
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