タクミシネマ     そんな彼なら捨てちゃえば?

そんな彼なら捨てちゃえば?
ケン・クワピス監督

 女性の自立は、女性に幸せをもたらすとは限らない。
職業を手にした女性たちは、男性と同じ収入を手にしつつある。
保護は差別の裏返しだから、男性は女性を保護しなくなった。
やさしくエスコートしてくれる恋愛の相手が、いなくなってしまった。
男性が結婚から逃げるようになった。
仕事を手にした女性たちが、恋愛相手に餓えている。
そんな現代を、やや昔風のタッチで描いている。

Still of Jennifer Aniston, Jennifer Connelly and Ginnifer Goodwin in He's Just Not That Into You
IMDBから

 女性は自立を求めた。それは男性の保護を不要だ、と宣言することだった。
我が国では、いまだに可愛い女性がもてるし、女性たちは巧みに可愛さを演技している。
それでも我が国の男性も、結婚しなくなった。
アメリカでは可愛さを演技しても、ほとんど通用しない。
可愛い女性は子供っぽく見られて、恋愛の戦場では勝ち目がない。

 仕事ができる女性たちだが、男性が欲しいことは変わりない。
仕事ができればできるほど、異性との出会いが欲しい。
英雄が色を好むのは、男性とまったく同じである。
しかも、最高のパートナーがいるはずだという、恋愛幻想が大きく幅を利かせている。
そのため、お気に入りの男性を見付けようと、女性たちは必死である。


 新しい男性とデートを繰り返すが、どうしても男性から電話がこないジジ(ジェニファー・グッドウィン)。
男友達はいても、恋人にならないのだ。
男心を知ろうと必死だが、ていよく振られてしまう。
職場で同僚の女性たちに相談するが、優しく慰められるだけである。

 同僚のベス(ジェニファー・アニストン)は、ニール(ベン・アフレック)と7年も同棲しているが、非婚主義者の彼は結婚したがらない。
ニールに迫ったところ、あっさりと破局になってしまった。
すでに結婚しているジャニーン(ジェニファー・コネリー)だったが、夫のベン(ブラッドリー・クーパー)はアンナ(スカーレット・ヨハンソン)に籠絡されて、離婚してしまった。
ゲイ雑誌の編集者メアリー(ドリュー・バリモア)は、ストレートの男性との出会いがない。

 対する男性陣は、アンナに振り向いてもらえないコナー(ケビン・コノリー)。
女性にクールなアレックス(ジャスティン・ロング)と、さまざまに登場するが、この映画の男性たちには女性に飢えてはいない。
かつては異性を求めるのは、もっぱら男性であり、男性が異性に飢えていた。
映画はもてない男性の嘆きを描いたものだ。
しかし、現代では状況はいささか違う。

 女性に主導権を握られているのは、アンナに執心のコナーだけだ。
そのコナーだって、結局はメアリーと結ばれる。
アレックスはレストランの経営者として、多くの女性に囲まれて、遊ぶ女性に不自由はしていない。
ベンはアンナに言い寄られているし、既婚者だと言っても、なお迫られている。
4人の女性たちが、それぞれに男性と悪戦苦闘するのだ。

 現代恋愛映画の様相は、昔とはずいぶんと違う。
もはや女性は、待つ立場ではない。
女性は男性から選ばれる存在ではなく、女性も男性と同じように、異性を選ぶ存在になっている。
だから、女性も男性の心を読んで、自分を売り込まなければならない。
しかし、台頭した女性の恋愛は難しい。

 ジャニーンはベンに禁煙を求めるが、ベンは禁煙できなくて、隠れて吸っている。
彼女はそれが判ると、彼を許せない。
もちろん浮気は許せないのだが、離婚まで望んでいるわけではないのに、結局は離婚に至ってしまう。
このあたりは、エリック・ゼムールが「女になりたがる男たち」で描くように、現代女性の姿がよくでている。

 この映画は、恋愛に餓える女性たちを、決して非難してはいない。
むしろ、やさしく温かい目で見ている。
アメリカでも自立した女性は、まだ少数だし、彼女たちの目にかなう男性は、もっと少ないのだ。
ベスの恋人ニールは非婚主義者だが、家事もするし、何よりもベスに優しい。
非婚主義者が通用するのは、大都会だけらしい。


 ベスは妹の結婚式のため、生家に帰る。
すると、旧態依然たる男性たちを発見する。
父親が心臓病でたおれても、男性たちはフットボールに夢中で、家事をやろうとしない。
ベスは父親の面倒と、居候たちの食事の面倒まで見なければならない。
あらためて、ニールの良さを知る。
おそらく、いまだ家事をしない男のほうが多いのだろう。

 アメリカに限らないが、どこの国も、大きな田舎をもっている。
田舎は古い生活習慣が、なかなかかわらない。
我が国でも、男性の郷里へ帰ると、女性たちは嫁として、こき使われるであろう。
婿は上げ膳・据え膳だが、嫁は働いて当然と見られている。
男尊女卑は西洋では300年、我が国では150年くらいの歴史をもつ。
変化はそう急激には完成しない。
それでも、こうした映画が徐々に、女性の地位を上げていくだろう。

 それにしても、自立した女性とは、先進国のしかも裕福な人たちの話だと思う。
この映画には、貧乏な女性は1人も出てこなかった。
おそらく女性たちは、全員が大学卒業だろうし、こぎれいなアパート暮らしである。
女性が自立するには、サービス産業従事でなければ、不可能である。
フェミニズムは裕福な都市に住む女性のものだ。

 映画としてみると、ちょっとよく判らない点もあった。
ちょっとだけ描かれたベスの生家の風景を加えて、田舎の男性が男尊女卑とはじめて判る。
ベスの妹の結婚式のエピソードを除いてしまうと、女性たちのたんなる男あさりの映画になってしまう。
何を言いたいのか、もう少し鮮明にして欲しかった。

 邦題には大いに問題がある。
原題は「He's Just Not That Into You」であり、「彼は貴女に興味がない」とでも訳される。
にもかかわらず、「そんな彼なら捨てちゃえば?」では、まったく反対だろう。
しかし、この邦題のせいか、公開して2週間たつのに、客席は若い女性であふれていた。

 ほとんどが若い女性の2人連れで、男女のカップルは2組程度。
彼氏を捨てようとする女性が多いのだろうか? 
二十歳そこそこの女性たちに囲まれて、老人は身の置き所がなかった。 
2009年アメリカ映画

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