タクミシネマ      ハリーポッターと謎のプリンス

ハリーポッターと謎のプリンス
デビッド・イェーツ監督

 ハリー・ポッター シリーズの6作目である。
ハリー(ダニエル・ラドクリフ)も、ずいぶんと成長して大きくなった。
そして、彼といつも一緒だったロン(ルパート・グリント)も大人になった。
しかし、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)はあまり変化していない。
小さなときより、はるかに美人になった。

IMDBから

 悪のヴォルデモートが台頭するのを察知したダンブルドア校長は、それに対抗すべく化学の教員スラグホーンをスカウトする。
そして、ハリーに戦いの準備を進めるように告げる。
そんななか、ハリーたちはホグワーツ魔法魔術学校に集まってくる。
最初のうちはこのシリーズも、小さな魔術を見せることが上手く、ほのかな優しい心もちにさせてくれた。

 しかし、悪が登場してからは、正義と悪の対決が全面に出てきてしまった。
そのため、ファンタジー色がうすれ大味な映画になってしまった。
正義と悪の対決となると、どうしても悪を作らなければならない。
正義はハリーたちが演じるとしても、悪を映像化するのは、正義を映像化する以上に難しい。
正義だって人間が決めるものだし、とても抽象的なものだ。


 多くの場合、悪は人間社会に害悪をもたらすものと、正義の裏返しとして描かれる。
正義が抽象的である以上、悪も抽象的にならざるを得ない。
正義は人命で象徴するとしても、正義と悪は、結局のところ観念の産物だから、それだけを映像化することはとても難しい。
じつは何を悪とするかは、人間次第なのだ。

 シリーズも最初のうちは、登場人物の描写や小物でごまかしがきくが、これだけ続いてくると描きようが無くなってくる。
今回も、魔女(ヘレナ・ボナム・カーター)がいかにも姿で登場するが、彼女だって何かをなしたというわけではない。
悪は黒、汚れ、醜さとして描かれることが多いが、それだって先入観であり、映画特有の約束事に過ぎない。


 この映画は、現世から離れたホグワーツ魔法魔術学校で、魔術を学ぶ子供のかわいさを描いたものだ。
だから、蝋燭が浮いているとか、封筒が自然に開くとか、といった小さな魔術で観客は納得したのだ。
ところが、小さな魔術を次から次へと創造するもの難しいので、正義対悪へと主題をずらしてしまった。
小さくてかわいらしい魔術を創造するつらさを、悪へと逃げたことが映画として詰まらなくしている。

 原作があって、それを映画化しているのだろうが、原作は文字だからかわいい魔術を、映像として描かなくてもすむ。
しかし、映画は映像で見せるものだ。
最初のうちは原作に寄りかかっても良いが、映像として魔術を創り続けないと、ストーリーにだけ頼ることになってしまう。
残念ながら、このシリーズも先が見えてしまった。

 小さな子供たちの世界だったが、今回は男女の恋心へと入っていった。
しかし、ファンタジーという前提があるために、恋愛を描くのは下手である。
セックスを連想させる子供の恋愛は、タブーであるからだろう。
ここでも性的なイメージは、ていねいに排除されている。
すでに男性と同棲しているエマ・ワトソンの、している恋愛とはまったく違うだろう。

 ハリーがロンの妹と仲良くなりそうだが、ヒーローに恋をさせるのは、とても難しい。
いままで見てきたファンは、ハリーの恋人に寛容ではないだろうから、ロンの妹にしたのだろうが、それも歯切れが悪い。
そして、ロンがモテモテで、ハーマイオニーがロンにあこがれるという展開は無理である。
2人の雰囲気はまったく違い、なぜハーマイオニーがロンにあこがれるのか。
彼女の心の説明がなしに、いきなりでは説得力がない。

 ダンブルドア校長がこの作品で死んでしまう。
ハリーにとって一種の自立なのだろうが、重要なキャラクターを失ってしまった。
今後、物語の展開は、ますます悪との対決色を強めていくだろう。
原題は、「Harry Potter and the Half-Blood Prince」
 2009年アメリカ映画

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