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ハーヴェイ・ミルクの伝記映画で、主演のショーン・ペンがオスカーを取ったので、注目をあつめるようになった。 映画としてのできは、イマイチであるが、主題に星を献上する。 ほんとうは星を、2つ献上したいくらいの主題だが、映画の完成度と無関係に評価するわけにはいかないので、残念ながら星一つとするのだ。
ハーヴェイ・ミルクの伝記映画は、リチャード・シュミーセン監督によって、1984年に一度映画化されている。 「ハーヴェイ・ミルク」という題名で、ドキュメンタリーだったから本人も出演していたらしい。 残念ながらボクは見ていない。 この映画も、84年アカデミー長篇記録映画賞を受賞している。 1960年代まで、ゲイは生きていくのも困難だった。 一度、ゲイだと知れてしまうと、職業は失うし、アパートから追い出され、時として殺されさえした。 1960年代の後半、人間解放の波が、世界中を襲った。 ゲイにも、やっと解放の光が届きはじめた。 70年代にはいると、その果実が実りはじめた。 ゲイたちはサンフランシスコにあつまり、自分たちのゲットーを作り始めた。 その中心にいたのが、ハーヴェイ・ミルクである。 この映画では、彼が証券アナリストだった時代より前にはふれていない。 同じ時期にベトナム反戦運動もあったが、それにも触れていない。 ゲイの解放運動にかかわるようになって以降、暗殺されるまでを描いている。 彼は何度も市政執行委員に立候補するが、そのたびに落選。 3度目だか4度目で、やっと当選する。 その後、ゲイだけではなくマイノリティ、つまり高齢者や女性、黒人などの差別撤廃に身を捧げる。 しかし、市政執行委員である保守派のD・ホワイト(ジョシュ・ブローリン)によって、G・マスコーニ市長(ビクター・ガーバー)とともに暗殺される。 この映画が描くゲイは、同性愛つまりホモと呼ばれていた時代である。 しかし、成人男性が年少者を愛するものではない。 最初にハーヴェイ・ミルクの恋人になるスコット(ジェームズ・フランコ)は、20歳にはなっていなかったようだが、すでに変声期をすぎて成体となった若者である。 しかも、最初の科白が、40歳以上はお断りだという。 同じくらいの年齢の同性が、恋人としておなじ横並び感覚で、付き合うのがゲイだ。 当時ゲイというと、年少者を性的な対象にすると思われており、ゲイとホモの区別が付いていなかった。 そのため、ゲイたちは子供を対象にするのではないと、必死で訴えなければならなかった。 少年愛というホモは大昔からあったが、ゲイは最近になった生まれたものだ。 ゲイは女性の解放と同様に、近代社会が生んだものだ。 前近代では人間が、上下関係で結ばれていた。 年長者が偉くて、女性より男性が偉かった。 若者や女性は、社会的な劣位におかれた。 それは農業という産業が要求する社会秩序だった。 そのため、年少者を年長者を愛することは否定されたが、年長者が年少者を愛することは肯定された。 産業革命によって工業が主流になるに及び、人間関係が横並びになり、上下関係にたったホモが否定されはじめた。 そして、年少者や女性を横並びに見る視線が生まれ、近代の市民革命で取り残された人たちへの解放へとつながっていく。 それが1968年の5月革命だった。 ここでやっと、ゲイや女性は市民権を得られるのだ。 この映画でも、ゲイたちが市民権を否定されてしまう提案6号をめぐって、彼等は死力を尽くして闘う。 この法案が成立すれば、ゲイというだけで職業は失うし、アパートから追い出され、選挙権さえ失いかねないのだ。 しかも、誰がどうやってゲイだと決めるのだ。 この法案はまるで魔女狩りだ。 この闘争方針は厳しいものだった。 ゲイだとわかれば、殺されるかも知れない。 そこでカム・アウトせよとは、過酷な運動方針だった。 しかし、これが時代に適合した。 ゲイたちの主張がとおり、提案6号は否決される。 ハーヴェイ・ミルクがカム・アウトをいうとき、ありのままの息子を認めない親は、ほんとうの愛情がないという。 この科白には、涙がでそうになった。 親たちは子供を心配して、常識にしたがえといって、安全な道を押しつける。 そこまでは良いが、親の言うことに従わないと、家を出ていけとか、親子の縁を切るという。 こうなると単なる親の自己保身に過ぎない。 映画としては、ふるいフィルムを使った部分とつなげるためだろうが、セピア調の画面があった。 時代を感じさせるためとはいえ、デジタル処理すれば、もっと綺麗になっただろうと思う。 むさ苦しい男性ばかりのなかに、ゲイの女性アン(アリソン・ピル)が、広報係として登場する。 このシーンがとても良かった。 原題も「Milk」。 蛇足ながら、「超・映画評」を上梓した奥山篤信氏の映画評は、「余りに不快な同性愛逆差別に、映画を観るもので吐き気を催すミルクに対して、暗殺者によるその頭に止めの一発に、正義の銃弾と喝采したものも多いのではないか」と、愚かなことを書いている。 2008年アメリカ映画 |
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