|
||||||
銀行が悪者になる映画で、大がかりな舞台設定、複雑な背景など、なかなかに見せる仕上がりである。 インターポールの捜査官が、主人公というのも、グローバル化を反映してか、ちょっと新しい。 権力と結びついた犯罪は、個人的な頑張りでは撲滅できないという。 星こそつけないが、2時間、充分に楽しめる。
ベルリンの駅、車のなかで映画は始まる。 どうやら情報提供らしい。 提供を受けた仲間の男が車を降りると、主人公サリンジャー(クライブ・オーウェン)の目の前で死んでしまう。 殺人を訴えるが、取り上げられない。 アメリカの検察官エラ(ナオミ・ワッツ)と連絡を取っている。 IBBCという銀行の犯罪らしく、銀行がミサイル売買を仲介しているというが、全貌はわからない。 サリンジャーが捜査する対象は、つぎつぎに殺されていく。 IBBCの情報提供者クレマンも殺され、イタリアの武器商人で次期首相候補のカルビーニも、サリンジャーに話をする直前に暗殺される。 IBBCのニューヨーク支店のマネーロンダリング疑惑から、エラも動いているが、司法省の動きが鈍い。 ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカと、主要国の政府も絡んでいるらしい。 IBBCへの捜査に、妨害が入る。 制御装置を製作できるのは、世界中でカルビーニとスナイの2社だけ。 カルビーニを暗殺しながら、カルビーニの息子たちに接近する。 IBBCが暗殺者として使った、コンサルタント(ブライアン・F・オバーン)がニューヨークに戻っており、彼の動向から糸口がつかめる。 IBBCのスカルセン頭取から、指令を受けていたウェクスラー(アーミン・ミューラー=スタール)が、サリンジャーたちに拘束されて、IBBCから寝返る。 そこからサリンジャーたちの反撃が始まる。 1980〜90年代に、BCCIというプライベートバンクが、武器の輸出やマネーロンダリングなどにからみ、膨大な利益を上げるという事件があったらしい。 中東のオイルマネーや中国の武器を結びつけ、主要国の首脳とも関係を持ち、CIAも黙認していたほどの力があったという。 BCCIは1991年に倒産したが、この映画はBCCIをモデルにしている。 かつてはソ連が悪者になり、ソ連が崩壊すると、アラブが悪者になった。 しかし、アラブの資金を支えているのは、銀行だということで、この映画になったのだろう。 悪も巨大になると、もはやどこも手がだせなくなる。 この映画でも、サリンジャーたちの捜査が、政府筋から何度も邪魔される。 そこでエラは手を引き、サリンジャー個人がウェクスラーとで、IBBCに立ち向かっていく。 スカルセン頭取を追いつめると、カルビーニの手下が復讐として殺していく。 個人的な犯罪だから、IBBCは頭取が変わるだけで、無傷で残っていく。 わずかに、後年エラが捜査にのりだすと、字幕が入るだけである。 この手の最近の映画にたがわず、ロケも世界中の都市にまたがる。 ベルリンの新しい建物が、たくさん使われて目を見張る。 インターポールのリヨン本部といい、新しい建物は、ほとんどガラスで中が丸見えである。 ガラスの多用は最近の傾向だが、ガラスを使うことは良いのだろうか。 すべてが透明化し、軽くなり、存在を消していく社会では、建築も存在を消す。 そのためには、ガラスが最適なのは理解できる。 しかし、物としての建築を消しても、物としての人間を消すわけにはいかないだろう。 概念操作としての金融工学が凋落したように、建築を概念としてだけあつかうと、しっぺ返しを食らうようにも思うのだが…。 グッゲンハイム美術館や、終盤で舞台になるイスタンブールのモスク、地下貯水施設など、古い施設は美しい。 ガラスと金属の建物もカッコはいいが、多くの人に美しいと言われるようになるだろうか。 ミラノの古い超高層ビルが、何度も登場したが、かつてのような衝撃力はない。 シカゴなどに林立するガラスの超高層は、技術の粋を集めたものだが、グッゲンハイム美術館のレトロさに勝っているだろうか。 この映画では、グッゲンハイム美術館のセットを組んで、なかで銃撃戦をやっていたが、ガラスの建物よりヒューマンタッチな感じがした。 新しい建物は、たしかに衝撃的だが、それ以上の生命をもつだろうか。 明治以降の建物は近代建築といわれ、伝統的な様式建築からは区別される。 それにたいして、最近の建築はまた違うように感じる。 近代建築ですら、人間の手作業的な部分が残っていた。 手作業的な部分が、不規則な模様を作りだし、それが暖かみへと繋がっていたのだろうか。 それに対して、ガラスと金属の建築は、直線的で無機質である。 冷たい無機質さを快く感じる感性が、ガラスと金属の建築で作られていくのだろうか。 最初は、近代建築ですら馴染めなかったのだろうから、ガラスと金属の建物にも馴染んでいくとは思うが、人間の感性が変わることも確かだろう。 「The International」という国家間の意識に満ちた原題である。 2009年アメリカ映画 |
||||||
|
||||||
<TAKUMI シネマ>のおすすめ映画 2009年−私の中のあなた、フロスト/ニクソン 2008年−ダーク ナイト、バンテージ・ポイント 2007年−告発のとき、それでもボクはやってない 2006年−家族の誕生、V フォー・ヴァンデッタ 2005年−シリアナ 2004年−アイ、 ロボット、ヴェラ・ドレイク、ミリオンダラー ベイビィ 2003年−オールド・ボーイ、16歳の合衆国 2002年−エデンより彼方に、シカゴ、しあわせな孤独、ホワイト オランダー、フォーン・ブース、 マイノリティ リポート 2001年−ゴースト ワールド、少林サッカー 2000年−アメリカン サイコ、鬼が来た!、ガールファイト、クイルズ 1999年−アメリカン ビューティ、暗い日曜日、ツインフォールズアイダホ、ファイト クラブ、 マトリックス、マルコヴィッチの穴 1998年−イフ オンリー、イースト・ウエスト、ザ トゥルーマン ショー、ハピネス 1997年−オープン ユア アイズ、グッド ウィル ハンティング、クワトロ ディアス、 チェイシング エイミー、フェイク、ヘンリー・フール、ラリー フリント 1996年−この森で、天使はバスを降りた、ジャック、バードケージ、もののけ姫 1995年以前−ゲット ショーティ、シャイン、セヴン、トントンの夏休み、ミュート ウィットネス、 リーヴィング ラスヴェガス |
||||||
|