タクミシネマ    ザ バンク−堕ちた巨像

ザ バンク  堕ちた巨像
トム・ティクヴァ監督

 銀行が悪者になる映画で、大がかりな舞台設定、複雑な背景など、なかなかに見せる仕上がりである。
インターポールの捜査官が、主人公というのも、グローバル化を反映してか、ちょっと新しい。
権力と結びついた犯罪は、個人的な頑張りでは撲滅できないという。
星こそつけないが、2時間、充分に楽しめる。

IMDBから

 ベルリンの駅、車のなかで映画は始まる。
どうやら情報提供らしい。
提供を受けた仲間の男が車を降りると、主人公サリンジャー(クライブ・オーウェン)の目の前で死んでしまう。
殺人を訴えるが、取り上げられない。
アメリカの検察官エラ(ナオミ・ワッツ)と連絡を取っている。
IBBCという銀行の犯罪らしく、銀行がミサイル売買を仲介しているというが、全貌はわからない。

 サリンジャーが捜査する対象は、つぎつぎに殺されていく。
IBBCの情報提供者クレマンも殺され、イタリアの武器商人で次期首相候補のカルビーニも、サリンジャーに話をする直前に暗殺される。
IBBCのニューヨーク支店のマネーロンダリング疑惑から、エラも動いているが、司法省の動きが鈍い。
ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカと、主要国の政府も絡んでいるらしい。
IBBCへの捜査に、妨害が入る。

 IBBCはミサイル本体の手当てできたが、制御装置が入手できない。
制御装置を製作できるのは、世界中でカルビーニとスナイの2社だけ。
カルビーニを暗殺しながら、カルビーニの息子たちに接近する。

 IBBCが暗殺者として使った、コンサルタント(ブライアン・F・オバーン)がニューヨークに戻っており、彼の動向から糸口がつかめる。
IBBCのスカルセン頭取から、指令を受けていたウェクスラー(アーミン・ミューラー=スタール)が、サリンジャーたちに拘束されて、IBBCから寝返る。
そこからサリンジャーたちの反撃が始まる。

 1980〜90年代に、BCCIというプライベートバンクが、武器の輸出やマネーロンダリングなどにからみ、膨大な利益を上げるという事件があったらしい。
中東のオイルマネーや中国の武器を結びつけ、主要国の首脳とも関係を持ち、CIAも黙認していたほどの力があったという。
BCCIは1991年に倒産したが、この映画はBCCIをモデルにしている。

 かつてはソ連が悪者になり、ソ連が崩壊すると、アラブが悪者になった。
しかし、アラブの資金を支えているのは、銀行だということで、この映画になったのだろう。
悪も巨大になると、もはやどこも手がだせなくなる。
この映画でも、サリンジャーたちの捜査が、政府筋から何度も邪魔される。


 サリンジャーの捜査も、イギリス時代の公式なものでは、権力筋から邪魔されてきた。
そこでエラは手を引き、サリンジャー個人がウェクスラーとで、IBBCに立ち向かっていく。
スカルセン頭取を追いつめると、カルビーニの手下が復讐として殺していく。
個人的な犯罪だから、IBBCは頭取が変わるだけで、無傷で残っていく。
わずかに、後年エラが捜査にのりだすと、字幕が入るだけである。

 この手の最近の映画にたがわず、ロケも世界中の都市にまたがる。
ベルリンの新しい建物が、たくさん使われて目を見張る。
インターポールのリヨン本部といい、新しい建物は、ほとんどガラスで中が丸見えである。
ガラスの多用は最近の傾向だが、ガラスを使うことは良いのだろうか。

 すべてが透明化し、軽くなり、存在を消していく社会では、建築も存在を消す。
そのためには、ガラスが最適なのは理解できる。
しかし、物としての建築を消しても、物としての人間を消すわけにはいかないだろう。
概念操作としての金融工学が凋落したように、建築を概念としてだけあつかうと、しっぺ返しを食らうようにも思うのだが…。

 人間の美意識はなかなか変わらない。
グッゲンハイム美術館や、終盤で舞台になるイスタンブールのモスク、地下貯水施設など、古い施設は美しい。
ガラスと金属の建物もカッコはいいが、多くの人に美しいと言われるようになるだろうか。
ミラノの古い超高層ビルが、何度も登場したが、かつてのような衝撃力はない。

 シカゴなどに林立するガラスの超高層は、技術の粋を集めたものだが、グッゲンハイム美術館のレトロさに勝っているだろうか。
この映画では、グッゲンハイム美術館のセットを組んで、なかで銃撃戦をやっていたが、ガラスの建物よりヒューマンタッチな感じがした。
新しい建物は、たしかに衝撃的だが、それ以上の生命をもつだろうか。


 明治以降の建物は近代建築といわれ、伝統的な様式建築からは区別される。
それにたいして、最近の建築はまた違うように感じる。
近代建築ですら、人間の手作業的な部分が残っていた。
手作業的な部分が、不規則な模様を作りだし、それが暖かみへと繋がっていたのだろうか。
それに対して、ガラスと金属の建築は、直線的で無機質である。

 冷たい無機質さを快く感じる感性が、ガラスと金属の建築で作られていくのだろうか。
最初は、近代建築ですら馴染めなかったのだろうから、ガラスと金属の建物にも馴染んでいくとは思うが、人間の感性が変わることも確かだろう。
「The International」という国家間の意識に満ちた原題である。
 2009年アメリカ映画 

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