タクミシネマ        ウォンテッド

ウォンテッド  
ティムール・ベクマンベトフ監督
Timur Bekmambetov

 ピストルの弾道を曲げるだって? 
観念が肥大し、意志の力が大きくなるのが情報社会だけれど、なかなかすごい着想である。
アメリカン・コミックが原作だとはいえ、来るところまできた感じの映画で、「いやはや」という感想である。

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    IMDBから

 フラタニティと名のる暗殺集団は、世界の安定を守るために、危険分子を選んで暗殺してきた。
これは千年昔から続いた組織で、神のお告げにしたがって暗殺してきた。
有力なメンバーだった男が、仲間の裏切りによって殺された。
するとその組織は、殺された男の息子ウェズリー(ジェームズ・マカボイ)を、誘拐してきて洗脳し、暗殺者として訓練した。

 話は単純である。
ウェズリーを訓練するのが、フォックス(アンジェリーナ・ジョリー)だとすれば、どんな展開になるかは、おおよそ想像が付く。
父親を殺したクロス(トーマス・クレッチマン)との抗争が、派手に繰り広げられ、ウェズリーの厳しい訓練が延々と続く。

 ウェズリーは超能力者だと言うことが、徐々に明らかになり、彼は有能な暗殺者になった。
訓練の過程は平凡で、ここまでが長すぎる。
連続する訓練シーンは、いったい何が言いたいのか、と興ざめになる頃、やっと彼は父親の復讐にのりだすことになった。

 ここからは面白い。
ウェズリーとフォックスが、クロスを追って地球の反対側まで行く。
車が列車に突っ込むシーンや、列車が谷間に落ちるシーンなど、驚きをもってみることができる。
クロスを追いつめたところで、どんでん返しがあり、組織の長スローン(モーガン・フリーマン)の裏切りが判る。


 あとは日本のヤクザ映画そのままである。
悪い親分への殴り込みをかける健さんそっくりに、ウェズリーは1人で組織へと突っ込んでいく。
そのあとの大立ち回りもヤクザ映画と同じで、この監督はロシア人だというが、日本のヤクザ映画のファンじゃないかと思うほどだ。

 同じように奇想天外でありながら、「ダーク ナイト」が哲学を映像化していたのに対して、この映画は派手なアクションにつきる。
アンジェリーナ・ジョリーが痩せてしまって、ちょっと迫力がなくなっていたが、彼女のアクションには斬新なシーンがあってビックリさせられる。

 この映画の新しさは、何と言っても弾道を曲げることができることだろう。
最後には弾丸が円を描いてまわり、一度に何人も殺していくのだから、呆れて言葉がない。
今までの映画は、ピストルを突きつけて三竦みになるとか、どう弾をよけるかに腐心していた。
しかしこの映画は、かるがると弾道を曲げて、決着を付けてしまった。

 常識を取り外してしまえば、話の幅はぐっと広がりそうだが、実はそうではない。
弾道を曲げながら、この映画も話の展開は、まったく平凡である。
映像的な面白さはあっても、物語としての衝撃はほとんどない。
弾道を曲げるのはこの映画限りで、後続映画への影響力はない。

 主題の深化と主題をめぐる物語の展開こそ、時間の評価に耐えられるのだし、影響力を持ちうるのだ。
アンジェリーナ・ジョリーはイメージが固まりすぎて、これからどう演じていくのか難しくなってきた。
暴力を演じることのできる数少ない女優さんなのだから、漫画的な世界からぜひ脱皮して欲しい。 

  
 2008年アメリカ映画   (2008.09.24)

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