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幸せの1ページ
ジェニファー・フラケット&マーク・レビン監督
Jennifer Flackett & Mark Levin

 情報産業に従事する現代人のユートピアを、童話風に描いている。
きわめて今日的な問題意識だが、消費経済を否定していながら、無人島での生活はマック浸りというのは、どんなものだろうか。

幸せの1ページ [DVD]
IMDBから

 女性冒険作家アレクサンドラ(ジョディ・フォスター)は、冒険小説を書いているが、潔癖性の度が過ぎて外出もできない。
郵便が来ても、ポストまで行けないくらいに臆病なのだ。
その彼女が、絶海の孤島に住むニム(アビゲイル・ブレスリン)と、メールでつながってしまった。

 最初は、海洋学者であるニムの父親ジャック(ジェラルド・バトラー)に、小説のネタを求めてメールを送ったのだが、それを受けたのがニムだった。
ジャックは調査のために出航中だった。
そんなところへ、アメリカの観光客を乗せた船が、無人の島へやってくる。

 これを海賊船と勘違いしたニムは、仲間の動物たちと戦おうとするが、応援が欲しい。
そこで彼女は、アレクサンドラに応援のメールを打つ。
真に受けたアレクサンドラは、一大決心のもとサン・フランシスコから、絶海の孤島へと出発する。

 引きこもりの小説家という設定が、IT産業に従事するソフト屋さんたちを想定しているのだろう。
彼らは朝から晩まで、PCの前に座ったきり。
情報はもちろんネットからだし、現実との接点がないから、まったくの潔癖である。
無菌状態にいると言っていい。

 PCでやっている仕事は、現実の自分自身とは無関係なことが多い。
この映画でも、アレクサンドラは自分が書くヒーローのアレックス・ローバー(ジェラルド・バトラーの1人2役)とは似ても似つかない。
現実と観念が分離してしまっている。

 ソフト屋とは多かれ少なかれオタクであり、現実的なバランス感覚を欠いている。
この小説家も、まさにそのとおりである。
戸外にすら出られないのに、思い立ったが百年目、雑菌が一杯の南洋の無人島まで行ってしまう。
南洋の島は、ITオタクにとってユートピアである。

 ニムらの住む島の位置は、誰にも知らせていないにもかかわらず、必要な品物は定期便が届けてくれる。
ナショナル・ジオグラフィックに寄稿したりして収入はある。
自分の存在は、誰にも知られないが、生活はばっちりできる。
ITオタクは、PCなしでは生きていけない。
電気はソーラー発電ですむ。
無人島でも、マックが2台もある。

 消費社会から生まれたパソコンが、生活の場になってしまった現代人だが、大衆的な消費社会には強い嫌悪感を示す。
観光船からやってくる観光客たちは、極め付きの醜悪に描かれる。
もちろん、自己矛盾は映画製作者たちもよく知っているから、この映画は童話風のコミック仕立てにせざるを得ない。

 PCと生きることになってしまった寂しい現代人たち。
どこかにユートピアがあり、そこに行けば幸せと出会える。
この映画では、アレクサンドラは何の確執もなく、ジャックと結ばれてしまう。
もちろん、ニムは2人を祝福している。
これでは、やっぱり虫が良すぎるだろう。

 情報社会に生きる現代人には、生きる手がかりとか、生き甲斐をまだ確立できていない。
情報社会の人間でも、手応えのある人肌が恋しい。
すべて透明で重さのない世界でありながら、そこに精神の安住がない。
精神性だけで生きることができないのは、肉体を持つ人間の性だろう。


 この映画製作者たちは、PCから離れられない。
自分の勝手な夢だと知りつつ、ユートピアを求めている。
彼らは商品経済の申し子でありながら、大衆を醜悪なものと見ている。
気持ちはよく判るが、農耕社会の尻尾を引きずる日本人としては、ちょっと違和感があった。 原題は「Nim's Island」
 2008年アメリカ映画   (2008.09.10)

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