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コメディ仕立てにしたかったのか、まじめな路線で行きたかったのか。 ちょっと迷いを感じるが、きちんとした主張がある。 最近の日本映画としては出色である。 めずらしく骨のある映画で、星を献上する。
雪の中を登場する車が、「ファーゴ」の冒頭を思い出させる。 2人の男が乗っている。 1人は納棺を業とするNKエージェントの社長・佐々木(山崎努)と、もう一人は最近に入社した小林(本木雅弘)。 彼らは、人の死んだ所に向かっている。 佐々木は葬儀屋の下請けで、死体の納棺だけを業としている。 小林は東京で失業して、妻(広末涼子)と故郷の山形に帰ってきた。 仕事の少ない田舎で、探し当てたのが納棺屋さんだった。 この仕事に抵抗のある彼だったが、佐々木の示した高給と、短い労働時間に吊られて、入社してしまった。 しかし、妻には内緒である。 日々の仕事は、驚きの連続だった。 遺族が感謝してくれたりして、納棺にも慣れ始めた。 給料もよく、労働時間も短い、愛でたしでは映画にならない。 人間の死にまつわる偏見に、彼は、いや彼以上に妻や友人が捕らわれている。 小さな田舎町で、納棺だけを業とすることが成立するか。 新人に対して50万円の月給を払えるほどの売り上げがあるのか、とちょっと疑問になるが、それは問わないことにしよう。 死を直視するには、葬儀屋より納棺屋のほうが良い。 死とは生きることだったというが、この映画は、生きている人間たちが故人は斯くあって欲しい、と願う気持ちの反映だと描く。 不様な死体ではなく、美しく化粧させ、死に装束を身につけさせて、野辺の旅立ちに送りだす。 どんな人間にも、美しく装わせる納棺屋さん。 死んだ人間の一生を、誰でも平等に美しく飾ってやる。 じつにヒューマニスティックな職業である。 佐々木はたんたんと納棺屋さんを営む。 けっして卑下することなく、それなりにプライドを持っている。 そんな佐々木の姿勢に、小林は次第に馴染んでいく。 やがて、小林も納棺を業とすることに、プライドを持つようになる。 しかし、妻は違った。 星は付けているが、このあたりの展開は平凡である。 まず、彼らが帰郷するのにも、まったく職の目途なしである。 ウェブ・デザイナーだという妻の職業は、田舎ではあるのか。 無職の夫に、妻は日々何をしているのか。 このあたりにリアリティがない。 アメリカの映画なら、かならず女性の職業が描かれる。 しかし、この映画では、田舎での妻の仕事には、まったく触れていない。 彼女は専業主婦なのだろうか。 東京では裕福な生活だったらしいが、あの生活をどう維持しているのだろう。 小林が納棺屋さんに馴染んでいくことに、映画の焦点を合わせているので、彼らの生活はまるでママゴトになってしまっている。 死を見つめる主題は、ほんとうに真摯で良いと思うが、彼らの生活が嘘っぽいのである。 それに対して、佐々木の浮世離れした生活は、じつに清々しい。 佐々木の不思議なリアリティは、おそらく山崎努のキャラクターによるのではないだろうか。 彼は脚本に対して、監督の演技指導以上の、読み込みをしているように感じる。 すでに妻を失って、もはや執着するものがない。 それが彼の演技に、よく表れている。 監督は意識しているかどうか判らないが、いままで人間には軽重があった。 その集約的表現が葬式であり、葬儀屋さんは人間の軽重の差異を強調してみせる。 盛大な葬式は重要人物が、簡素な葬式は軽い人の死を表した。 いや葬式すらない例もあった。 妻を亡くした富樫(山田辰夫)が、納棺後に改めて妻への愛情を感じさせるシーンは、その心情がじつによく伝わってきた。 そして、冒頭の性転換者や族の女の子など、納棺だけを取り上げることによって、死が平等化されていた。 小林が馴染んでいく過程も納得である。 しかし、6歳の時に別れた父の納棺は、血縁への回帰を感じさせて、平等化を否定するようで矛盾を感じた。 死んだ父が思いを込めて握っていた石を、妊娠中の妻のおなかへ当てる行為は、血縁信仰への回帰である。 血縁を大切だという主張は、死の平等化と両立しない。 観念が支配するから、死が平等化できるのに、血縁幻想は復古的で矛盾している。 監督は家族への愛情を描きたかったのだろうが、血縁しかない小林に、父親への愛情を感じさせるのは無理である。 むしろ、山下ツヤ子(吉行和子)の死をめぐる、平田(笹野高史)の行動のほうが、この映画の主題とよく合っていた。 2008年日本映画 (2008.09.19) |
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