タクミシネマ        近距離恋愛

近距離恋愛    ポール・ウェイランド監督

 男女が仲良くするには、経済的な必要性はまったくない。
女性も稼ぎがあるから、自分の人生は自分で決める。
セックスと結婚とが、関係なくなった先進国。
ただ愛情だけが2人をつなぐ。
しかし、この映画は反対意見のようだ。
愛情とは頼りないものだという、古いイギリス人監督のアメリカ人への意地悪な皮肉だろうか。


近距離恋愛 [DVD]
IMDBから
 イケメンのトム(パトリック・デンプシー)は女性にもてまくる。
彼には女性のほうから言い寄ってくる。
同じ女性とは2日続けてベッドインしない、と公言していた。
そんな彼には、身近な女友達のハンナ(ミシェル・モナハン)がいた。
彼女とはあまりにも親しすぎて、恋愛の対象にならなかった。

 学生時代から10年来の付き合いだが、彼女がスコットランドに旅行し、そこで恋人コリン(ケビン・マクキッド)を見つけたことから話が変わる。
すっかり舞い上がったハンナは、コリンと結婚すると宣言。
しかも、筆頭の花嫁付添人(Made of Honor)を、トムにやってほしいという。

 今までの2人の関係と、ハンナの熱の上げ方から、コリンとの結婚に反対できない。
花嫁付添人は女性がやるものだが、男女平等の世の中である。
親友だから良いだろうといわれて、トムはしぶしぶ承諾する。
そして、ずるずると花嫁付添人の役割をすすめていく。
しかし最後には、トムとハンナは結ばれるという、よくある話でである。

 映画自体はまったくのB級映画であり、特別に取りたてて論じるまでもない。
この映画で注目したのは、ハンナがのぼせ上がったのがスコットランド人であることだ。
アメリカ人特にニューヨーカーは、ヨーロッパ人コンプレックスが強い。
にもかかわらず最後には、スコットランドの貴族コリンを振って、アメリカ人のトムを選ぶ。


 自立したはずの女性ハンナは、スコットランドの貴族に参ってしまう。
スコットランド人つまりヨーロッパ人だったから、恋に落ちたように思う。
これがアジア人だったら、この物語が成り立っただろうか。
もちろんアジア人と恋するアメリカ人女性もいる。
しかし、アジア人男性が相手の場合には、トローンとした目にはならないだろう。

 文化的な優者であるヨーロッパ人だから、ハンナはトローンとしたのだ。
そして、ニューヨークでのすべてを捨てる覚悟をしたのだ。
ここには男性と女性の古い関係が見える。
彼女はメトロポリタン美術館に勤務するにもかかわらず、その仕事をあっさりと捨てて、スコットランドに永住するという。

 自立したと言いながら、外人の恋人にメロメロになり、簡単に職業を放棄してしまう。
しかも、友人トムの気持ちには無頓着なまま。
この監督は、現代アメリカ人女性を批判したつもりなのだろうが、どんな女性も結婚に憧れているのだ、という反動的なメッセージが強い。

 アメリカ人女性は古い女性役割と、新しい男性と同じ社会人役割を、女性はうまく使い分けている。
女性は自分からは何もしないで、身勝手な限りである。
しかも、ヨーロッパの古い文化にはからきし弱い。
スコットランドの野蛮な風習をも、たやすく受けいれてしまう。
おそらくイギリス人監督からみた、身勝手な現代女性への批判だったのだろう。
しかし、この映画はちょっと悪意に満ちている。

 アメリカ女性は身勝手で、自立しておらず、簡単に権威に流される。
相変わらず男性が、女性をリードするのだ。
アメリカ人のヨーロッパ・コンプレックスを使いながら、アメリカ女性を批判し、しかも、最後にはアメリカ人と結ばせて、アメリカ映画である辻褄を合わせている。


 こんな視点をイギリス人の監督が撮っている。
この辺の皮肉を、どう考えたらいいのだろうか。
アジア人監督は、決してこんな映画は撮らないだろう。
こうしたスタンスは、落ちゆく大英帝国の末裔か。原題は、Made of Honor
 2008年アメリカ映画   (2008.07.18)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る