タクミシネマ       インディジョーンズW−クリスタル・スカルの王国

インディジョーンズ クリスタル・スカルの王国
スティーヴン・スピルバーグ監督

 インディ・ジョーンズ・シリーズは、前3作で終了予定だったらしい。
大好評で大いに儲かったので、番外編が作られたのだろう。
今回は、考古学者インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)が、宇宙人の頭蓋骨をめぐって、南米にわたってロシア兵と戦う。

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国 [DVD]
IMDBから

 話は1957年から始まる。
ソ連の台頭があり冷戦が始まった頃、スパルコ司令官(ケイト・ブランシェット)はネバダのアメリカ軍の保管庫に進入し、クリスタル・スカルを奪おうとする。
その手伝いとして、インディアナが連れてこられる。
何と、そこで原爆が爆発してしまう。
原爆には大いに問題があるので、別に後述する。

 クリスタル・スカルを本来の場所に戻した者は、とてつもない力を手に入れることが出来るとあって、彼らは南米へと向かう。
いかにもアメリカ人好みの冒険物語で、ナスカ、ペルー、メキシコなどなど、アメリカの裏庭を彼らは縦横無尽に歩き回る。

 シリーズに付き合ってきた人には分かるだろうが、南米で元恋人と再会し、アメリカから一緒に来た若者は、彼の息子だとわかるという顛末。
ちょっと付いていけないご都合主義。
もちろん最後は、何と彼が結婚までしてハッピーエンドに終わる。

 CGを多用した画面ではあるが、新しいシーンを見せるのは本当に難しいとわかる。
CGの技術はどんどん進歩するが、優れたCGで表現するお話は、想像力でふくらませるしかなく、突飛もない話はなかなか想像できないものだ。
宇宙と宇宙のあいだから来た生物という設定らしいが、その姿も通常の宇宙人と同じである。

 インカの遺跡にしても、想像力が突き抜けているわけではなく、新しい映像シーンを作るのはほんとうに難しいのだ。
ただ、ジョージ・ルーカス・プロダクションともあろうに、この映画に関しては、前に立つ人物や物が背景にうまく馴染んでおらず、CGの不自然さが何カ所か目立った。

 物語に関しては特別に言うことはない。
しかし、原爆の扱いが、無知としか言いようがなかった。
映画では人間が空を飛んでも良いし、透明人間になっても良い。
それらはあり得ないと、観客たちが無前提の前提にして、お話を楽しんでいるのだから、大いに結構なことだ。


 この映画が原爆を扱うのは、それとは違う。
原爆が爆発する寸前、爆発をさけるために、彼は冷蔵庫に閉じこもる。
冷蔵庫は鉛に遮蔽されているからということで、彼は爆心から吹き飛ばされながら、全くの無傷で助かる。
こんなことはあり得ないが、これは良いとしよう。
その後、彼は水シャワーで身体を洗われて、放射能を落としたことにされる。
これはないだろう。

 爆心にいたら当然に被爆しているはずで、こんな状態ではない。
それを水で洗っただけで、全くの異常なしというのもあり得ない。
映画であろうとも、なぜこれがダメかと言えば、映画製作者たちは被爆したあとの放射能について知っている。
原爆のキノコ雲でリアリティを使いながら、被爆の処理にはリアリティを無視している。

 原爆で吹き飛ばされて、月まで行っちゃったというのなら良い。
しかし、被爆したら放射能のせいで、悲劇的なことになると知っていながら、その程度を薄めてみせることはやってはいけない。
荒唐無稽はやってもいいが、話の辻褄をあわせるための、こじつけはやってはいけないのだ。
しかも、被爆するエピソードは、主な物語とは関係ない。

 原爆を被爆した後には、こう処理すれば無害になるという描き方は、原爆に対する無知をさらけ出している。
と同時に、被爆してもこの程度の処理で大丈夫だ、という特異な政治的な発言となっている。
弾丸を跳ね返しても良いし、スーパーマンが原爆を封じ込めても良い。
しかし、リアリティの程度を使い分ける中途半端な辻褄合わせは、映画だからこそやってはいけないのだ。

 冒険映画やSF映画は、どこかで無理がでてくる。
それを批判しているのではない。
空を飛べたスーパーマンが飛べなくなるには、飛べなくなった理由が必要である。
その映画が前提とするリアリティの使い分けを批判しているのだ。
スティーブン・スピルバーグの常識を疑った。

原題は、「Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull」

 2008年アメリカ映画   (2008.07.23)

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