タクミシネマ        アメリカばんざい

アメリカばんざい Crazy As Usual
藤本幸久監督  

 映画とはフィクションを楽しむものだ、とボクは考えている。
そのため、この映画はドキュメンタリーということで、ちょっと抵抗があった。
しかし、「告発のとき」を見た後だったので、ポレポレ東中野まで出かけた。


前宣伝のビラから
 上映開始の前に、監督の舞台挨拶があり、長閑な感じがよみがえってきた。
小さな映画館と相まって、何だか1970年頃の雰囲気だ。
沖縄で見た兵隊がとても若いのに驚いたことが、この映画を撮る動機になったと、挨拶のなかで監督が言っていた。

 この映画を完成させるために、クルーは7回もアメリカに行ったそうである。
イラクで死んだアメリカ兵は、すでに4千人を越えたと、墓場を模した風景が写される。
イラク戦争反対の映画を、日本人が撮るときには、どんな立場で何を主張するのか。
それが難しいだろう。

 どんな戦争にも反対という立場は、もちろんあり得るが、この立場をとる人は必ずしも多くはない。
アメリカがやっている戦争を、「アメリカばんざい」と皮肉るのが、人道主義からの発言だとは思えない。
この監督の立場は、映画を見る限りでは、よく分からなかった。


 戦死したアメリカ兵の親が嘆いて見せたり、帰国後PTSDで苦しむ息子を愛おしむ親とかを映し出す。
この映画は、戦場から帰った後日談を中心に、構成されている。
主に描かれるのは、帰国兵の多くがPTSDに苦しみ、その結果、社会に復帰できず、ホームレスになっていくという風景だ。
帰国兵対策が不充分なため、ホームレスたちは厳しい生活に、追い込まれている様子が映しだされる。

 「告発のとき」が自分のなかのアメリカと向き合い、自己のアメリカ性を掘り下げていた。
イラク戦争はアメリカ人には切実なのだ。
日本人には切迫性が薄い。
この戦争にお金をだして、自衛隊が行ったが、誰も死んではいない。
イスラムとの確執は遠い世界の話だ。 

 この監督は、この映画で何が言いたかったのだろうか。
GIビルは嘘ばかりで、少しも役に立たないというシーンを多く撮っていたが、これはアメリカでも一面的な見方だろう。
だいたい戦争支持者のマケインさんが、いまでも大統領候補だということは、かなり多くの国民が戦争を支持しているに違いない。

 アメリカ人を取材したせいでか、戦争のおかげでアメリカ人がひどい目に遭っている、そんなトーンが多かった。
劣化ウラン弾の話だって、アメリカ兵が被害にあっているというのは、この映画としては妙な取り上げかただ。
戦争のやり方が悪い、作戦が下手だと聞こえてしまう。

 GIビルが少しも役に立っていないから、戦争反対というのもおかしなものだ。
GIビルが役に立ったら、戦争をすすめろという主張にはならないだろうが、この映画は復員兵へのサービスが悪い、という面を強調していたように感じた。
そのあたりがドキュメンタリーの限界なのかもしれない。

 フィクションはまず主張があって、その主張を支えるために、さまざまなエピソードを拾って物語を組み立てていく。
ところがドキュメンタリーは、事実の積み重ねでしかない。
事実は2面性をもつから、事実に主張を紛れ込ませるのは限界がある。
事実は常に反対読みができてしまう。

 映像としてみたら優れているかというと、これまた及第点とは言い難い。
まず長所は、声がよく拾われていることだ。
しかし、登場人物を中心においた日の丸画面が多く、しかも1人が延々としゃべるだけで、映画としての動きがない。
ビデオ特有の発色の良さはあるが、フレーミングなど少しは工夫が必要だろう。  

 この映画に賛同する人だろう、最後に多くの名前がでた。
彼(女)等は、良心的ではあるのだろうが、戦争なるものをどう考えているのだろうか。
 2008年日本映画   (2008.07.30)

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