タクミシネマ          イーグル・アイ

イーグル アイ   D・J・カルーソー監督

 主人公もワケが分からないまま、映画は進行する。
と同時に、観客もワケが分からないままである。
最近のアメリカ映画では、中盤になってもネタを明かさないモノがあるが、この映画もそんな類の展開である。


イーグル・アイ [DVD]
IMDBから
 コピーショップの店員ジェリー(シャイア・ラブーフ)は、双子の兄弟だった。
優秀な兄と違って、典型的な落ちこぼれ。
スタンフォードを中退して、バックパッカーで半年もアジアを放浪したり、親とも何年も音信不通になっている。
そんな時、彼の兄が死ぬ。

 葬儀から帰ると、銀行口座には大金が振り込まれており、アパートには大量の武器が送られてくる。
すると、すかさずFBIの急襲である。
その直前に携帯がなって、女の声で逃げろという。
しかし、間に合わずに、簡単に逮捕されてしまう。
テロリスト容疑で収監され、FBIの取り調べが始まる。


 同じ頃、弁護士事務所で働くレイチェル(ミシェル・モナハン)の携帯がなる。
同じ女の声で、前に止めてある黒のポルシェ・カイエンに乗れ、と指示がでる。
ポルシェのカイエンと指定するところが驚きである。
息子を人質に取られていることがわかり、彼女は抵抗できない。
やがてジェリーが彼女の車へ導かれ、2人は女の電話に導かれて、必死の逃走が始まる。

 FBI捜査官トーマス(ビリー・ボブ・ソーントン)と空軍の特別捜査官ゾーイ(ロザリオ・ドーソン)が、2人を執拗に追うが、彼(女)らは何とか逃げおおしていく。
謎の電話の指示にしたがっての逃走と、FBIの追跡が延々と続く。

 ネタが明かされないから、散漫な感じである。
そのためか映画館で隣に座った女の子は、バックライトを明るくして携帯をいじっていた。
それはともかく、とにかくワケが分からないままに映画は進む。
やがて、謎の声はコンピューターだと判る。
監視社会を主題にしたという前宣伝だったが、正義の相対性が主題である。

 アメリカ政府はテロリスト対策のため、アリアと名付けた大型コンピューターを開発中である。
アリアは人の行動パターンをすべて分析し、テロリストか否か正確にかぎわける。
アリアにテロリストと診断されると、無条件に抹殺されていく。
アリアの担当だった兄は、アリアのやりすぎを指摘し、彼女に逆らったために殺されたのだった。

 アリアは正義の実現のために、大統領以下15人の政府関係者を抹殺しようとしていた。
しかし、そのプログラムの発動を、ジェリーの兄が自分の声で封印していた。
その封印を解くために、同じ声紋をもつジェリーを、アリアの元へと導いたのだ。

 政治家の判断は、完璧な正義の実現ではない。
あくまで正義は相対的なものであり、政治家はさまざまな利害を均衡させたなかで、判断し決断する。
だから絶対の正義を、実現しようとするコンピュータには、戦争を決断する政治家は大悪人に見える。  


 コンピューターの演算能力が上がり、確率の計算速度が速くなると、パターン認識が正確になる。
だから人間行動の識別も、可能であるかに思える。
たしかに通勤経路とか、買い物のパターンとか、そうとうに正確な規則性は導けるだろう。
しかし、何が正義かは、パターン認識に馴染まない。

 にもかかわらず、パターン認識でやっていけるかのように錯覚する。
公平さを求め、効率的な支配を望む者であれば、パターン認識という規則性を魅力的に感じるだろう。
テロ対策として、テロリストの行動を掴みたいがために、パターン認識を使いたくなる。

 言いたいことはよく判るが、前半がのろく、観客の気持ちを掴む力に欠ける。
無名の俳優が主人公を演じているが、彼(女)の演技が下手なわけではない。
やはり脚本が不充分なのである。
大金をかけているが、元が取れるのだろうか。
2008年アメリカ映画
(2008.10.23)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

 「映画の部屋」に戻る