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石油に取りつかれた男の物語だが、お金がすべてにみえる、アメリカ自身への批判でもあるのだろう。 1900年頃のアメリカ西部、男たちの金儲けは金の採掘から、石油の鉱脈探しへと変わっていた。
彼の名前はダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)。 映画はすでに石油探しに取り組んでいるシーンから始まる。 出生や生いたちの背景はわからない。 石油探しが彼の生きがいである。 同僚が死んで、赤ん坊が残された。 彼はその赤ん坊H.W.(ディロン・フレイジャー)を、自分の子供として育てる。 H.W.が6・7歳になった頃、ポール(ポール・ダノ)という若者が、自分の親の土地に石油がでると言ってくる。 彼は安い値段で土地を手に入れる。 その土地から石油が出た。 こうなれば、話の展開は想像がつくだろう。 地元の人は、石油で潤うと同時に、財をなしつつあるダニエルへの嫉妬がうまれる。 とりわけ、寄付を約束された牧師のイーライ(ポール・ダノ)は、約束を果たせと迫る。 私人間の話ではあるが、原子力発電所の誘致とよく似た構造である。 パイプライン敷設のために、ダニエルは地主の求めに応じて、信じてもいないキリスト教に帰依させられる。 このキリスト教が食わせ者だった。 イーライは平手打ちをして、ダニエルに洗礼を与える。 晩年、ダニエルは莫大な財産を築き、1人で豪華な家に住んでいる。 そこへ借金の申込みに、イーライがやってくる。 貧乏教会で活動していた、かつてのイーライとは異なり、いまでは有名になったらしい。 しかし、資産の運用に失敗し、破産寸前でダニエルに助けを求めにきた。 ダニエルは融資に応じるが、神は偽善だと言えという。 むかし、ダニエルがやられた仕返しである。 この映画は、石油に取りつかれた俗物ダニエルと、 宗教に取りつかれた俗物イーライを、2人並べてみせる。 石油探しは、ギャンブルである。 しかし、スタンダード・オイル社はエスタブリッシュメントとして、アメリカ社会に君臨している。 だから石油というより、成り上がり者への批判だろう。 しかも、石油と新興宗教という成り上がりは、分野が違うだけで同じ現象である。 欲望に取りつかれた石油屋という話は、とても判りやすい。 だから、宣伝は石油は欲望という名の<黒き血>だったと謳う。 しかし、俗物性においては、石油屋も宗教者もかわらない。 最初に登場する2人の貧乏そうな姿から、最後にはイーライも金持ちそうな姿になっている。 我が国では、宗教者は清貧に甘んじるというイメージがある。 そのため、最後にイーライが登場するシーンでは、別人かと思ったほどだ。 ピカピカに磨かれた黒い靴が、イーライの裕福さを物語っている。 ダニエル・デイ=ルイスがあまりにも熱演してしまったので、石油屋の話になってしまい、 石油と宗教の対立は影が薄くなってしまったのだろう。 スタンダード・オイル社は当時、すでにスマートな大企業になっていたらしく、 ダニエルの利権を買いたいと言ってくる。 ダニエルは断るのだが、どちらの欲望が強いのかわからない。 弟をかたったヘンリーを殺したことは許されない。 しかし、資本主義の本質は欲望の充足だから、ダニエルのやってきたことは、すべてが責められるべきではないだろう。 ダニエルの活動は、貧乏な村に豊かさをもたらしている。 何のリスクを取らなかった村人たちも、充分にその恩恵をうけている。 ダニエルは自分の一生を、石油にかけたのだ。 ウィンドウズというOSにかけたマイクロソフトのビル・ゲイツと、どこが違うのだろうか。 そう考えると、この映画は石油屋の話ではなく、石油対宗教の話ではないだろうか。 そう見るには、ダニエル・デイ=ルイスの頑張りすぎが、邪魔しているだけではないだろうか。 ダニエル・デイ=ルイスの熱演を除いてしまうと、案外に平凡な映画だったように感じる。 2007年アメリカ映画 (2008.05.02) |
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