タクミシネマ        ゼア ウィル ビー ブラッド

ゼア ウィル ビー ブラッド
ポール・トーマス・アンダーソン監督

 石油に取りつかれた男の物語だが、お金がすべてにみえる、アメリカ自身への批判でもあるのだろう。
1900年頃のアメリカ西部、男たちの金儲けは金の採掘から、石油の鉱脈探しへと変わっていた。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]
劇場パンフレットから

 彼の名前はダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)。
映画はすでに石油探しに取り組んでいるシーンから始まる。
出生や生いたちの背景はわからない。
石油探しが彼の生きがいである。

 同僚が死んで、赤ん坊が残された。
彼はその赤ん坊H.W.(ディロン・フレイジャー)を、自分の子供として育てる。
H.W.が6・7歳になった頃、ポール(ポール・ダノ)という若者が、自分の親の土地に石油がでると言ってくる。
彼は安い値段で土地を手に入れる。

 その土地から石油が出た。
こうなれば、話の展開は想像がつくだろう。
地元の人は、石油で潤うと同時に、財をなしつつあるダニエルへの嫉妬がうまれる。
とりわけ、寄付を約束された牧師のイーライ(ポール・ダノ)は、約束を果たせと迫る。
私人間の話ではあるが、原子力発電所の誘致とよく似た構造である。

 この映画の見所は、宗教との確執であろう。
パイプライン敷設のために、ダニエルは地主の求めに応じて、信じてもいないキリスト教に帰依させられる。
このキリスト教が食わせ者だった。
イーライは平手打ちをして、ダニエルに洗礼を与える。
晩年、ダニエルは莫大な財産を築き、1人で豪華な家に住んでいる。
そこへ借金の申込みに、イーライがやってくる。

 貧乏教会で活動していた、かつてのイーライとは異なり、いまでは有名になったらしい。
しかし、資産の運用に失敗し、破産寸前でダニエルに助けを求めにきた。
ダニエルは融資に応じるが、神は偽善だと言えという。
むかし、ダニエルがやられた仕返しである。


 この映画は、石油に取りつかれた俗物ダニエルと、
宗教に取りつかれた俗物イーライを、2人並べてみせる。
石油探しは、ギャンブルである。
しかし、スタンダード・オイル社はエスタブリッシュメントとして、アメリカ社会に君臨している。
だから石油というより、成り上がり者への批判だろう。
しかも、石油と新興宗教という成り上がりは、分野が違うだけで同じ現象である。

 プロテスタントの国アメリカでは、狂信的な宗教の新興が絶えない。
欲望に取りつかれた石油屋という話は、とても判りやすい。
だから、宣伝は石油は欲望という名の<黒き血>だったと謳う。
しかし、俗物性においては、石油屋も宗教者もかわらない。
最初に登場する2人の貧乏そうな姿から、最後にはイーライも金持ちそうな姿になっている。

 我が国では、宗教者は清貧に甘んじるというイメージがある。
そのため、最後にイーライが登場するシーンでは、別人かと思ったほどだ。
ピカピカに磨かれた黒い靴が、イーライの裕福さを物語っている。
ダニエル・デイ=ルイスがあまりにも熱演してしまったので、石油屋の話になってしまい、
石油と宗教の対立は影が薄くなってしまったのだろう。

 欲望にはしる石油屋ダニエルの物語とみると、あまりに当たり前に見える。
スタンダード・オイル社は当時、すでにスマートな大企業になっていたらしく、
ダニエルの利権を買いたいと言ってくる。
ダニエルは断るのだが、どちらの欲望が強いのかわからない。

 弟をかたったヘンリーを殺したことは許されない。
しかし、資本主義の本質は欲望の充足だから、ダニエルのやってきたことは、すべてが責められるべきではないだろう。
ダニエルの活動は、貧乏な村に豊かさをもたらしている。
何のリスクを取らなかった村人たちも、充分にその恩恵をうけている。


 ダニエルは自分の一生を、石油にかけたのだ。
ウィンドウズというOSにかけたマイクロソフトのビル・ゲイツと、どこが違うのだろうか。
そう考えると、この映画は石油屋の話ではなく、石油対宗教の話ではないだろうか。
そう見るには、ダニエル・デイ=ルイスの頑張りすぎが、邪魔しているだけではないだろうか。
ダニエル・デイ=ルイスの熱演を除いてしまうと、案外に平凡な映画だったように感じる。
 2007年アメリカ映画
(2008.05.02)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る