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ベルリン映画祭最優秀新人作品賞を、授賞した映画である。 アメリカとベルリンでは、映画の評価基準が恐ろしくかけ離れてしまった、そう思わせる。 おそらくサンダンスでは見向きもされないだろう。
現代人の孤独が、ラブホテルの屋上という意外な場所で癒される、という主題は判る。 低予算映画だからの問題も、それほど気にならない。 演技のほうにも目をつぶる。 しかし、映画の作り方に、とても違和感を覚える。 女性4人の主要な登場人物、そして4人の小学生たちの人物設定には、何も言わない。 この映画は、一種のおとぎ話なのだろうから、人物設定には相当の自由があっても良い。 ラブホテルの経営者である、艶子(りりィ)のような女性がいるかも知れない。 また、13歳の少女美香が、あんな手紙を書くかということは置いて、彼女の登場を肯定しよう。 精子を集める不妊の女性マイカ(神農幸)はちょっと不自然だが、 歩く主婦の月(ちはる)は、ほんとうにいそうである。 しかし、人物をささえるリアリティは、誰にもまったくない。 だから、この映画に関して、主題や人物設定には論及しない。 しかし、映画は写真と違って、画面が動くのだ。 動かない画面に、音をかぶせただけでは、映画ではないだろう。 我が国の映画は、しばしば心象風景の描写といって、動かない場面をながながと撮すことがある。 これが効果的に働いていることはほとんどなく、 「お日柄もよく ご愁傷さま」のように、多くは監督の自己陶酔でしかない。 この映画は、なぜ動かないシーンを、こんなにたくさん撮るのだろうか。 動かない顔のアップが多い。 そして、表情が動かないまま、台詞が重ねられる。 艶子と美香が布団に入ってから、会話するシーンでは、真っ暗な画面に台詞だけがつづいていく。 ほんらい映画は、台詞ではなく動く画面によって、物語がつづられるべきだ。 それがすぐれた映画だろう。 台詞にたよった映画は、映画らしくない。 台詞に思いを込めるなら、朗読会でもやればいい。 動く画面との同調があってこそ、映画の台詞は生きてくるのだ。 この映画は、動かない画面が多すぎる。 動く画面で、説得力をもたせて欲しい。 もう一つの問題は、無音のシーンが多いことだ。 顔のアップをして、いかにも人物が何か言おうとするとき、しばらく黙ってしまう。 顔のアップから10秒もたった頃だろうか、その人物がおもむろにしゃべり出す。 観客は人物に思い入れを込めたいのに、黙ったままだから拒否されたような気分になる。 そのうえ、動かないシーンと、無音のシーンが多いとあっては、どうひいき目に見ても低い評価しかできない。 ピアの賞も授賞しており、この作品はPFFから援助を受けている。 とすると、我が国ではこうした映画作りが、評価されているということだろう。 アジアの映像作家たちは、スタイリッシュな画面をつくっているというのに、困ったことだ。 主題に言及しないと言ったが、やっぱりちょっと言いたい。 現代人の孤独を癒すという主題は、もう止めても良いのではないだろうか。 監督が、この映画を企画したときは、30歳くらいだったろうが、彼はほんとうに孤独なのだろうか。 おそらく漠然とした手応えのなさを感じてはいるのだろうが、 絶対の孤独は感じていないだろう。 近代の経験の仕方が、先進諸国とは違うから、我が国の孤独はとりとめがない。 真綿で首を絞められているようだ。 だから、映画表現も論理的になれずに、印象的な表現になる。 スザンネ・ビアの「しあわせな孤独」は、原題は「Open Hearts」ではあるが、似たような主題を扱って随分と違いを感じる。 何をして食べているのだろう。 艶子だって実人生の中に、くっきりとした居場所がない。 ありそうなのは月だけだが、彼女とて子供がいないのに職業も描かれていない。 人物設定こそ自由だが、存在は説得的であってほしい。 物語の展開が不自然である。 月にタダで良いから働かせてくれ、といわせるのも唐突だし、 無給の従業員を突如クビにしておきながら、艶子と月の関係は円満なままだ。 そのうえ、ほとんど客が来ないのに、コンドームの袋詰めばかりやっている。 監督は、おそらく現代人は孤独だという風潮を、マスコミや活字から聞いているだけじゃないだろうか。 自分で孤独を感じたことはないに違いない。 だから、自分の言葉で描けないのだ。 アメリカ映画が正しいとは言わないが、退屈させない画面をつくって欲しい。 ベルリン映画祭最優秀新人作品賞に期待して見に行ったが、途中で出てきたかった。 2007年日本映画 (2008.04.29) |
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