大いなる陰謀   ロバート・レッドフォード監督

 泥沼のイラク戦争へと、入り込んでしまったアメリカ。
ロバート・レッドフォードたち映画人の反省の映画である。
映画人たちも9.11直後には、アフガン侵略も支持したし、イラク侵略も支持してしまった。
はげしく後悔である。
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 今になったが、イラク侵略は間違いだった、と心から反省している。
自分たちが戦争を支持してしまったのだ。
その忸怩たる思いが、この映画を撮らせた原動力だろう。

 ロバート・レッドフォードだけではなく、メリル・ストリープも同じ思いで、この映画に出演しているに違いない。
誰でも間違いは犯す。
だから、改めることに躊躇するべきではないという言葉は、しかし、個人レベルものだ。
国家の行う戦争という話になると、間違ったと気づいたときには、多くの人がすでに死んでいる。
それゆえに、自分の誤った判断には慚愧の念がつきまとう。

 共和党の上院議員アーヴィング(トム・クルーズ)は、大統領選出馬の野望を抱く。
参戦派の彼はイラクの局面から、国民の目をそらせたい。
そこで、アフガニスタンで対テロ作戦を立案し、新たな作戦を極秘裏に進める。
この情報を好意的に報道して欲しいと、記者のロス(メリル・ストリープ)にリークする。

 話はもう一つあって、UCLAのキャンパスでは、
学生たちがマレー教授(ロバート・レッドフォード)の政治学の講義に聴き入っている。
彼は、授業にでてこない学生トッド(アンドリュー・ガーフィールド)を呼び出し、今後の方針を話す。
トッドは優秀な学生だが、個人的な関心しかなく、政治学が望むようなガッツを示さない。
マレー教授は、それがもどかしくてならない。

 裕福な白人のトッドに対して、黒人のアーリアン(デレク・ルーク)とヒスパニックのアーネスト(マイケル・ペーニャ)は、貧しい街からUCLAにきた。
彼等は大学院に進める成績だが、学費がないために米軍に志願する。
退役後には学費免除になるので、それから大学院に戻るという。
マレー教授は止めるが、彼等は米軍に入りアフガニスタンへと派遣された。

 アーヴィング上院議員は画期的な作戦だ、というが、案の定、失敗。
しかも、アーリアンとアーネストが、敵に殺される。
厳しい戦局は、好転しない。
裕福な学生の政治的な無関心に、マレー教授は苛立ちを隠せない。
彼は10〜15年前くらいから、学生の質が変わったと嘆く。

 大学は学問の府であり、とくにアメリカの大学は、教養人を育てようとしていた。
しかし、学生たちは今では金儲けのために入学してくる。
高給を稼げる就職のためには、卒業証書が必要なのだ。
しかも、金儲けが目的で、何が悪いと開き直る。
政治的無関心は、悪徳政治家の思う壺であると、マレー教授はなげく。

 2つの話が交錯しながら、映画は進む。
最後になって、この映画が訴えたいことは、自分たちが間違って支持してしまった、イラク戦争への謝罪だと知れる。
ジョージ・クルーニーといいロバート・レッドフォードといい、アメリカ人は真面目だと思う。
しかし、この真面目さが、イラク戦争を引きおこしたのでもあろう。

 アメリカ人たちは直面する問題に、真剣に必死で取り組む。
その時々に正解と思われる施策を、全力で遂行する。
しかし、その時は正しいと思っているだろうが、時間がたてば必ずしも正しくなくなる。
しかも、民主主義は正義だと信じているから、民主主義の普及には無前提的に肯定してしまう。

 状況が変わると、新たな状況に、また真面目に取り組む。
そこから新しい施策が導きだされる。
その時には、前の施策とは齟齬が生じている。
国内の問題であれば、試行錯誤するこのやりかたは有効だろう。
しかし、海外との関係には問題が多い。
アフガンだって、もとはアメリカの味方への支援だった。
それが敵になってしまった。

 状況状況で真剣に考え、真面目に判断しているのはよく判るが、
アメリカ人の真面目なこの思考方法自体が問題を引きおこす。
試行錯誤が孕んでいる失敗の可能性は、国内的には取り返しがきくが、戦争では取り返しがきかない。
すでに何人もの人が死んでいる。
アメリカが小国であれば、はた迷惑ではないが、大国だから困ったものだ。

 民主主義は人類が到達した優れた思想だと思う。
しかし、民主主義を採用していない国には、アメリカの行動は押しつけに見えるし、ファッシズムでありさえするだろう。
それにアメリカの国益が絡んで、国際政治はアメリカの横暴となる。
皮肉なことだが、アメリカ人の真面目さが、戦争を生みだしている。 

 余談ながら、マレー教授とトッドのやりとりは、我が国の大学では決してお目にかかれない。
学生であっても、教授に対してストレートに意見を言う。
それに教授も真摯に答える。
年齢や地位などは関係なく、人間が横並びであることがよくわかる。

原題は「Lion for Lambs」
2007年アメリカ映画
(2008.04.22)

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